マンションの大規模修繕でのエレベーター改修について悩む人は多いです。
大規模修繕で高額な費用がかかるのに、問題なく使えているエレベーターの改修を決断するのはなかなか難しいです。しかし、エレベーターは機械なので、永久に使えるものではありません。また安全に使うための条件もあります。
ただ修繕時にエレベーターを見直さないと、故障して長い間使えなくなることがあります。さらに、重大な事故につながりかねません。
そこで、ここでは、エレベーターの改修が必要かの判断基準やリニューアルの方法、費用の目安、改修費用を安くする方法まで含めて解説します。
マンション大規模修繕でエレベーター改修は必要なのか
いま使えているエレベーターについて、わざわざ高額な費用を掛けてリニューアルする必要があるのでしょうか。テレビと同じように、壊れたら買い替えればいいと考えている大家もいます。
私もそのひとりであり、私が所有するマンションにもエレベーターがありますが、壊れたら直せばいいと思っていました。
しかし、エレベーターがテレビと違うのは、故障して困るのが自分だけではないことがあります。また安全でなければいけません。
実際のところ、エレベーターを法令で定められている通り定期的にメンテナンスしていても、古くなれば安全とはいえなくなります。それでは、いつまでエレベーターは安全に使えるのでしょうか。
エレベーターの耐用年数から考える使用期間
エレベーターの耐用年数は、法定耐用年数は17年、計画耐用年数は25年となっています。法定耐用年数は、税務上の資産価値を表した年数のことで、17年にかけて原価償却していきます。
一方、計画耐用年数は、「適切なメンテナンスをしている場合の物理的な寿命」を指します。もちろん、計画耐用年数の物理的な寿命の25年を過ぎれば、直ちにエレベーターが危なくなったり、使えなくなるというものではありません。
ただし、多くのマンションでは、25~30年の間に大規模修繕を計画してエレベーターのリニューアルしている事実は理解しましょう。
部品の供給の終了もリニューアルのタイミング
他にも、部品の供給の終了もリニューアルのタイミングとなります。各メーカーでは、製造・納入したエレベーターの保守部品について、その機種の生産が終わった後でもある程度の期間供給を続けています。
例えば、東芝エレベーターでは、エレベーターの保守部品の標準供給期間は、原則として同機種の生産中止後20年を目途としています。以下は東芝エレベーターの公式サイトにある実際の部品供給期間についての文章です。
しかし、その機種の生産の終了からおおよそ30年前後になると部品の供給を終了し、エレベーターの故障や部品が破損したとき、修理ができずに困ることになります。
例えば以下は、日立製作所のエレベーターの部品供給の停止に関するお知らせです。ここでは実際の生産期間終了から20数年で部品供給を停止しています。
メンテナンス会社によっては他のメーカーや機種で代替品を探してくれることもありますが、代替品がなかったり、メーカーの保守だったりした場合には、エレベーターは故障したまま使えなくなってしまいます。
もちろん故障しているエレベーターを無理に使っていると、重大な事故につながる可能性があります。また故障時に早急な対応ができないため、リニューアルするべき期間に入り、既に部品供給が停止しているのであれば、早めに大規模修繕でエレベーターリニューアルをしましょう。
エレベーターが老朽化すると安全性に問題が出る
それでは、エレベーターをリニューアルせず使い続け、老朽化するとどうなるのでしょうか。中には、何の問題もなく使えるエレベーターもあります。ただ、多くは安全性に問題が出てきます。
具体的には下記のような現象が起こってきます。
- エレベーターから異音がする
- 昇降時に振動が増えた
- 異臭がする
- 目的の回数に着いたのに扉が開かない
- ボタンを押して待っていたのに通り過ぎていく
- エレベーターの止まる位置と外に段差がある
- 停止する際に上下に揺れる
- 操作ボタンの反応が鈍い
明らかに怖い現象もあれば、「あれ?いつもと違うな」と感じる程度のこともあります。
エレベーターに乗る度に起これば気が付きやすいですが、稀に起こる程度だと見過ごすこともあるかもしれません。しかし、このような現象が現れたときには、重要な部品の異常が隠れていることもあります。
例えば、エレベーターのガイドレールやドアレール、巻上機などの潤滑油が切れていると、摩擦により異音や振動が発生します。
早めに潤滑油を補充すれば問題は解決しますが、そのままにしておくと周辺部品が摩擦で壊れたり、発火したりする可能性もあります。
また、エレベーターのかごの移動を制御する制御盤に異常が生じれば、かごが急に動き出したり、移動している途中で止まったりすることもあります。
万が一、人が乗り降りしている時にエレベーターが急に動きだせば、かごと建物の間に人が挟まれてしまう重大な事故が起こります。事実、過去には日本で死亡事故が起こったことが何度もあります。
以下は、昇降機等事故対策委員会がまとめた2006年に東京で起こったエレベーター事故の報告書の一部です。
このような事故が起こる前に、エレベーターに上記のような異常が起こったら早めに対処しなくてはいけません。
ちなみに制御盤の交換が必要にも関わらず、既に部品の供給が終わっていたらどうすればいいのでしょうか。この場合は急な交換を依頼することになり、少なくとも数ヶ月はエレベーターを使えず、値段も業者の言う通り高めの金額を支払わなければいけなくなります。
高層マンションや、低層マンションでお年寄りや小さいお子さんがいれば、当然ながら日常生活に支障が出てしまいます。集められている管理費の中にはエレベーターの費用も含まれているため、エレベーターを使えなければ非常に強い不満が出ることになります。
以下は実際の「修繕積立金・管理費の入金明細書」と「国土交通省の標準管理規約」の一部です。
このように管理費は「共用設備の保守維持費及び運転費」に関する経費に充当するものであり、当然ながらエレベーターの保守維持費と運転費も含まれています。
したがって「何らかの問題が起こってから対処する」というスタンスは危険です。エレベーターのリニューアルでは、異常が起こる前にマンションの大規模修繕と併せて計画的に進めなければいけません。
エレベーターの既存不適格と改修費用について
エレベーターの安全に関する法律は年々厳しくなっていますが、既に設置されているエレベーターが現在の法律に合致していなくてもそのまま使えますし、罰せられることもありません。
これをエレベーターの「既存不適格」といいます。
例えば、いまの建築基準法では「ブレーキの二重化」「地震の時にエレベーターを停止させ戸を開く安全装置の設置」が義務付けられています。これらを既存のエレベーターに取付する費用は、ざっくり以下のようになります。
- 二重ブレーキの設置:一般的には500万円以上、工期は1~2週間ほど
- 地震等管制安全装置:取付費用も入れて50~100万円ほど
このように、エレベーターの既存不適格を是正するための費用は高額です。
直ちに安全性に問題があるわけではないということもあり、既存不適格を是正するためだけにエレベーターを改修するケースは少ないです。長期修繕計画に基づいて大規模修繕と併せてリニューアルするか、部品の供給が終了した時点で改修するようにしましょう。
エレベーターのリニューアル方法と費用の目安
それでは実際にマンションエレベーターのリニューアル工事を行うにあたり、どのような方法があるのでしょうか。また費用については、どのくらいかかるのでしょうか。
エレベーターのリニューアル方法には大きく3種類あります。
- 全撤去リニューアル
- 準撤去リニューアル
- 制御リニューアル
どのリニューアル方法を選ぶのかによって、費用や工期が異なります。もちろん、それぞれメリット・デメリットがあるため、大規模修繕の計画に合わせて方法を決める必要があります。
エレベーターの全撤去リニューアルは値段と工期がネック
全撤去リニューアルは文字通り、現在のエレベーターを全部撤去して、新しいエレベーターを取り付ける方法になります。
エレベーター本体だけでなく建物に付属した部分まで全部交換し、電気設備工事も大掛かりなので、工期は1ヶ月程度と長いです。費用もおおよそ1200~1500万円ほど掛かります。工事中の騒音や振動も大きく、建築確認申請も必要になります。
エレベーター本体も周りの設備も全て新品になるため、違うメーカーのエレベーターに変更することも可能であり、最新の法規に対応しています。
全撤去リニューアルは次の修繕計画を立てやすいため、修繕積立金も十分にある大規模な分譲マンションではこの方法を選択しましょう。しかし、小規模な分譲マンションや賃貸マンションの多くは予算的に難しく、一般的には他のリニューアル方法がとられます。
準撤去リニューアルは分譲マンションの多くが採用
エレベーターの建物に付属した部分(ガイドレールや枠、敷居など)はそのまま利用して、その他の部分エレベーターの巻上機、制御盤、かご、扉などを交換する方法が準撤去リニューアルです。
例えば以下は、準撤去リニューアルのパンフレットです。ピンクの部分が建物に付属しているガイドレールや枠などで、それ以外の水色の部分を交換します。
建物に付属した部分の工事がないので、工期は全撤去リニューアルより短く、工期中の騒音や振動もそれほどありません。建築確認申請も不要なことが多いです。
しかし、エレベーターの関連部品は現在の大きさに合わせたオーダー品になることが多いため、注文から納品までの期間が長く掛かります。費用も700~1000万円程度と高額です。
準撤去リニューアルではかごや扉が新品なので見た目も良く、最新の法規に対応できます。そのため分譲マンションの多くが選択する方法となりますが、賃貸マンションの場合にはそれでも値段が高く敬遠される傾向にあります。
エレベーターの制御リニューアルの魅力は費用の安さ
制御リニューアルとは、主に制御関連の交換や追加を行う方法であり、部分的に劣化したところも併せて交換する方法です。
例えば以下は、制御盤リニューアルのパンフレットです。「制御盤」とかごと乗り場の「操作盤」をリニューアルします。
制御リニューアルは費用が400~600万円と安く済むことに加え、工期も3日から1週間程度で終わります。建築確認申請も不要です。
デメリットとして、機種に寄っては最新法規へ対応できない場合もあり、その場合には既存不適格のままということになります。
おさらいすると、分譲マンションの多くは全撤去リニューアルか準撤去リニューアルを選択します。一方で、修繕積立金の余裕がない分譲マンションや賃貸マンションは、制御リニューアルを選びましょう。
エレベーターのリニューアル方法まとめ
それでは、それぞれのリニューアル方法について以下に簡単にまとめます。
リニューアル方法 | 全撤去リニューアル | 準撤去リニューアル | 制御リニューアル |
費用の目安 | 1200~1500万円 | 700~1000万円 | 400~600万円 |
工期の目安 | 1ヶ月 | 3週間 | 1週間 |
建築確認申請 | 必要 | 原則必要ない | 不要 |
このように、リニューアル方法によって費用にかなりバラツキがあります。それぞれ予算に応じて方法を選びましょう。
・基盤交換費用が必要になるケースがある
ちなみに大規模修繕やエレベーターのリニューアルの前に、メンテナンス会社から基盤交換を勧められることがあります。以下が実際に交換したエレベーターの基盤です。
制御盤内と動力盤の基盤交換費用の場合、通常30~40万円程度です。
もし基盤が故障して代替品がなければ、制御盤や動力盤を全て変えることになり、費用は100万円以上と高額になります。部品の供給停止となる前でも部品が欠品することもあるので、基盤の交換を提案された場合、交換しておいた方が無難です。
エレベーターのリニューアル費用を安くする方法
それでは、どのようにすればエレベーターの大規模修繕を安くできるのでしょうか。工事費用を安くする方法として、相見積もりは当然です。
特に全撤去リニューアルの場合、エレベーターのメーカーを変更することができます。メーカー各社から見積もりを取ることをおすすめします。
日本国内でのエレベーターのシェアが多い会社は、多い順に以下のようになります。
- 三菱電機
- 日立製作所
- 東芝エレベータ
この三社で7割を占めています。次に日本オーチス・エレベーター、フジテックが続き、この2社を合わせると国内シェアの9割以上になります。
当然、メーカー各社は売り上げを伸ばしたいと思っているので、シェアの多い会社よりシェアの比較的少ない会社の方がより安い見積もりを出してくれることが多いです。
独立系の業者を使うとさらに費用は安くなる
このとき「独立系」の業者を使うと、大規模修繕のエレベーターの改修費用が安くなる場合があります。独立系とは、エレベーターのメーカーのどこにも属さない会社のことを言います。
エレベーターメーカー各社は新品を納入するときに価格を安く設定して、後のメンテナンス費用で稼いでいます。独立系の業者はエレベーターの初期費用の上乗せがないため、メンテナンス費用は格段に安くなります。
エレベーターの改修に関して設置したメーカーに依頼することが多いのですが、これだと競争原理が働かず高額になってしまいます。
一方で独立系の業者はどのメーカーを使うかに縛りがなく、必要な部分に絞った提案や希望に沿った提案をしてくれて金額も驚くほど安いことが多いです。
私は以前、エレベーターのメンテナンスをメーカーから独立系に変更しましたが、メンテナンスの技術や提案に満足していますし、費用も半分程度になりました。
例えば以下は、実際に独立系の業者に依頼したときの見積もりです。
エレベーターの訪問点検が3ヶ月に一回という同じ条件で、メーカーの保守料は月額22,250円です。それに対して、独立系は月額9,250円でした。月々の保守料は半分以下になり、年間では156,000円も安くなりました。
ただし、独立系の業者は不安だという方もいると思います。
技術的なことでは私も不安だったのですが、「独立系の会社でメンテナンスをしている人のほとんどは大手メーカーを退職した人であり、年配ではあるが技術力が高い人が多い」と聞いて安心しました。
さらにメーカーは原則として自社の部品しか使えませんが、独立系では同じような部品を他社で探したり、リサイクル部品を使ったりも可能です。ただし独立系にエレベーターの大規模修繕を依頼する場合には、今後のメンテナンスも独立系に依頼することになります。
最終的にメーカーで修繕をするとしても、相見積もりを取れば、価格の交渉に有利に働くので、独立系の業者の見積もりを取ってみることをおすすめします。
エレベーターリニューアルに使える補助金
このとき大規模修繕に使える補助金の中には、エレベーターのリニューアルに使える補助金もあります。補助金は掛かった費用の一部を補助するもので、申請書類を作成して審査に通らなくては補助してもらえません。
私も国の補助金を申請したことがあります。以下は実際に私が提出した補助金書類の一部です。
なお一度でも補助金の支給が決定してしまえば、その金額までの補助は確定します。高額な費用もかなり軽減され、気持ちがかなり楽です。
補助金はそれぞれ厳しい要件があり、それに該当しないといけません。ただ大規模修繕はかなり高額になるので、費用の一部の補助といっても高額です。
例えば、以下の会社では国交省の「長期優良住宅化リフォーム推進事業」の補助金を使って、エレベーターの改修も含めた大規模修繕を行っています。合計1億5千万円の費用のうち三分の一の補助が出ています。
ここで使われた「長期優良住宅化リフォーム推進事業」の補助金は、請負業者が申請し、工事完了後に直接業者に支払われます。したがって施工主は申請する必要がありません。
なお国土交通省が実施する国の補助金は年によって変わりますし、要件も変わる場合があります。
他にも自治体によってはエレベーターの安全対策改修に活用できる補助金や助成金があります。例えば以下は新宿区のエレベーター防災対策改修の助成金です。
項目ごとに上限はありますが、3項目あわせて最大95万3千円の助成になります。
例えば補助金で100万円をまかなえた場合を考えてみます。30戸のマンションで修繕積立金が5千円とすると、全戸の修繕積立金6.6ヶ月分にもなります。当然、積立金は他の修繕にも対応するお金のため、補助金によって浮いたお金は他の修繕に回すことができます。
まとめ
マンションのエレベーターについて大規模修繕時期を過ぎて使い続けていると、老朽化して様々な問題が出てきます。そこで大きな事故などが起こる前に、長期修繕計画を立てて大規模修繕と併せてリニューアルするか、部品の供給が終了した時点で改修することを考えましょう。
改修の方法には全撤去リニューアル、準撤去リニューアル、制御リニューアルの3種類あり、それぞれメリット・デメリットがあります。金額や工期も異なるので、修繕積立金の残高や予算、それぞれの状況に応じて選びましょう。
またエレベーターのリニューアル費用を安くするためには、メーカーごとの相見積もりを取り、独立系の業者に頼むなどの工夫が重要です。さらに補助金も有効活用しましょう。
ここまでを考えて大規模修繕を適切な時期に計画的に行えば、エレベーターは安全性が保たれてマンションの住人は安心して暮らすことができます。