大規模修繕が必要な古いアパート

アパート経営は建てて終わり、買って終わりではありません。アパートに継続して入居してもらい、事業を続けていかなくてはいけません。そのためには、適切な大規模修繕が必要です。

ただ不動産投資やアパート経営では、修繕する内容を間違えたり過剰に修繕したりすれば儲かりません。また修繕の資金がなければ入居が付かず、経営破綻することもあります。

そのため長期的な修繕計画を立て、収益の中から修繕費用を定期的に積み立て、計画的に大規模修繕をするべきです。きれいに修繕されたアパートは入居率も高く、アパート経営が順調に進むでしょう。

さらに節税をしながら良い決算書を作ることで、手元資金に余裕ができて銀行からの評価は高まります。そこでここでは、健全なアパート経営のために必要な大規模修繕の内容と、修繕費用の効果的な積立て方法について考えていきます。

アパート経営の大規模修繕と費用の目安

まず、アパート経営において大規模修繕はどうして必要なのでしょうか。アパート経営における大規模修繕は、下記のような意味があります。

  1. 建物の維持管理
  2. 安全の確保
  3. 建物の耐久性の向上
  4. 入居者の快適性・居住性能の向上

このように大規模修繕には、賃貸人の義務や経営的な意味など複数の意味があり、その目的をよく考えながら修繕する必要があります。

つまり、アパートの賃貸人はその部屋や設備が使用できるように維持管理する修繕をしなくてはいけません。また、賃借人が安全に暮らせるように、また周辺の人に被害を及ぼさないように修繕する義務もあります。

また、アパートの屋上の修繕や外壁塗装をすることで、耐久性が向上し建物の寿命を延ばす目的もあります。さらに共用部の修繕をし、TVモニターフォンや宅配ボックスなどの設備を付ければ、入居者の快適性が向上して暮らしやすくなります。

アパートの宅配ボックス

これらはアパートの経営にとって大切なことです。なぜなら、建物を長く使ってもらえれば賃貸できる時期が長くなるからです。さらに時代や地域のニーズに合った設備を導入すれば、賃料の下落を防いで入居率を向上させることができます。

大規模修繕をすることでアパートの価値は上がる

なお、大規模修繕工事をすることでアパートの価値はどうなるのでしょうか。下記は12年ごとに大規模修繕をしたときのアパートの価値の図です。

大規模修繕によるアパートの価値向上

このように新築のアパートの建物は、何もしなければ30年後にはほとんど価値はなくなります。しかし、大規模修繕を12年ごとにすれば、新築と同様まではいきませんが、建物の価値は向上します。また築30年を迎えたときでも建物は使える状態であり、継続して稼ぐことができます。

ただし、アパートの大規模修繕が大切だということは理解していても、いくらくらいかかるのかはなかなかイメージしにくいです。またどんな修繕が必要になるのでしょうか。

木造アパートの修繕積立金の目安

ここで理想的な例を確認してみましょう。

国土交通省の「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」では、シングルタイプ(1K)10戸の木造アパートで30年間の修繕費は1,740万円かかるとされています。

シングルタイプ(1K)10戸の木造アパートの30年間の修繕費

築年数 1戸当たりの修繕費 1棟当たりの修繕費 修繕内容
5~10年 7万円 70万円 室内設備修理、ベランダ共用部塗装、排水管高圧洗浄
11~15年 52万円 520万円 屋根外壁塗装、ベランダ共用部塗装・防水、排水管高圧洗浄、外構修繕
16~20年 18万円 180万円 室内設備修理、ベランダ共用部塗装、排水管高圧洗浄・交換
21~25年 80万円 800万円 浴室設備修理・交換、屋根塗装またはふき替え、ベランダ共用部塗装・防水、排水管高圧洗浄
26~30年 18万円 180万円 室内設備修理、ベランダ共用部塗装、排水管高圧洗浄・交換、外構修繕
合計 174万円 1,740万円

それぞれの項目と金額を見ていくと、内容的には決して過剰なものではありません。しかし私が大家として色々な築年数の物件を購入してきた経験からいうと、ざっとこのくらいの修繕費は必要になります。

ただ、どのアパートでも上記項目のすべてを修繕するべきかというとそうではありません。アパートの家賃収入次第で修繕内容や金額をおさえる必要があります。

実際のところ、アパートによっては最初から家賃が安いアパートがあります。また、新築のときはそこそこの家賃が取れていても、少し古くなれば家賃下落が大きい物件もあります。数は少ないですが、立地が良く年数が経っても家賃下落がほとんどないアパートもあります。

家賃収入が少ないアパートに対して、上記の修繕項目を全てやっていると賃貸経営の儲けはほとんどなくなってしまいます。事実、このくらい大規模修繕費用をかけているアパートはほとんどないでしょう。

古い家賃が安いアパート

例えば、10戸のアパートの場合、1戸の家賃が5万円ならば年間収入は600万円です。仮に年間600万円の家賃がずっと入ってくれば、30年間で1億8千万円です。1,740万円の修繕費がかかっても総収入の10%以下なので、妥当といえるでしょう。

しかし、1部屋の家賃が3万円、年間想定収入が360万円のアパートに対して1,740万円もの修繕費は高すぎます。総収入の16%にもなり、儲けは全くでないでしょう。

例えば、下記は私の物件の給湯器が壊れたときの請求書です。

給湯器請求書

このように1戸当たり71,500円の費用がかかれば、10戸で70万円以上の修繕費になります。しかし、給湯器が故障して使えなければ部屋を貸すことはできません。給湯器の寿命はおおよそ10年といわれており、いずれ修繕が必要になります。

そのため低家賃のアパートの場合には、まず部屋を貸すための設備の修理・交換をして、それ以上の修繕は吟味してする必要があります。修繕すればどれくらい家賃が上がるのか検討し、家賃が変わらないのであれば、建物の維持や安全確保、最低限の設備更新にとどめるべきです。

アパートの家賃に応じた修繕をするべき

それでは妥当なアパートの修繕費はどのくらいなのでしょう。私の経験では、木造アパートの家賃に対する修繕費は、おおよそ以下が妥当です。

  • 築10年まで:家賃の5%
  • 築10年過ぎ:家賃の10%
  • 築20年過ぎ:家賃の15%程度

例えば、家賃3万円の部屋が10戸、年間家賃収入が360万円のアパートの場合、修繕費の目安は下記のようになります。

  • 新築~築10年:180万円(360万円×5%=18万円/年)
  • 築10~20年:360万円(360万円×10%=36万円/年)
  • 築20~30年:540万円(360万円×15%=54万円/年)

つまり30年間でおおよそ1,080(180+360+540)万円の修繕費を使います。内訳としては、1回目の大規模修繕で300万円、2回目の大規模修繕で500万円、そのほかの修繕で280万円支出するイメージです。

なお前述したとおり、不動産投資として大切なのは、修繕が必要な個所の全てにお金を掛けることではありません。費用対効果を常に考えて支出するべきです。

古くなったアパートに手を入れると、つい全て直したくなるものです。外壁を直して、共用廊下を防水したら、ポストも全部新しくしたくなります。ただその修繕や交換をして家賃が高くなるのでしょうか、または建物が長く使えるのでしょうか。効果が見込めないのであれば、その修繕は行うべきではありません。

家賃の10%を修繕積立金にまわす

上記の通り、実際にかかるアパートの修繕費の目安があります。ただし実際には、築10年までは修繕にほとんどお金はかからず、入居も比較的安定しています。そのためアパートの築が浅い時期から、一定の金額を修繕に備えて積み立てておくと良いでしょう。

私のおすすめは家賃年収の10%を修繕積立金にまわすということです。修繕計画を細かく立てたとしても、その時々で必要な修繕は変わってくるかもしれません。それでもいつか必ず修繕は発生し、金が必要になります。

アパート経営では、賃借人から頂く家賃は全て使えるわけではありません。融資を受けていれば銀行へ返済し、固定資産税や保険料、管理費、水道光熱費など様々な経費を支払います。使ってしまいたいのを我慢して、残った少ないお金の中から修繕費用を積み立てるのです。

もし手残りの金額をすべて自分のお金と勘違いして使ってしまえば、アパートの修繕に使うお金がなくなります。修繕しないままにしておくと、アパートは入居者に選ばれなくなり空室が多くなります。空室が多くなれば収入が減り、さらに修繕ができなくなります。

例えば、以下のようなアパートに住みたいと思う人は稀です。

修繕していないアパート

実際にそうなったアパートを私はたくさん見てきました。融資を受けていなければ問題はありませんが、融資を受けていれば返済ができなくなります。そうなればアパートは任意売却や競売にかけられ、大切な資産はなくなってしまいます。

なお中古で購入した場合には、最初から修繕費率が高い状態で保有することになります。場合によっては購入後すぐに大規模修繕をすることもあります。そのため、修繕費用も見込んで安く購入するか十分な自己資金を用意する必要があります。

節税しながら良い決算書をつくる

ただ家賃収入の10%を修繕のため積み立てるとき、定期預金などの方法で積み立てても経費にはなりません。経費にならないので納める税金も変わりません。

かつては損金に算入できる損害保険に加入し、大規模修繕費用に利用する方法が流行りましたが、国税庁の指導により保険の内容が変わって利用できなくなりました。

それではどのようにして将来の修繕費を積み立てればいいのでしょうか。

修繕積立金を経費にする方法

大家にとって、修繕積立金を経費にするおすすめの方法があります。それは経営セーフティー共済(倒産防止共済)に加入して、積み立てをすることです。経営セーフティー共済(倒産防止共済)は下記のような概要になります。

大規模修繕の積み立てにおすすめのセーフティー共済

経営セーフティー共済(倒産防止共済)は、国が全額出資している中小企業基盤整備機構が運営しています。サービス業の場合には、資本金が5千万円以下・従業員数100人以下の中小企業が対象です。万が一、管理会社などの取引先が倒産したときに貸付金が受けられます。

ただし不動産賃貸業の場合には、本来の目的よりも、大規模修繕に備える積立金としての使い方が便利です。掛け金は年間240万円まで、最大800万円まで積み立てられます。好きなときに解約することができ、40ヶ月を積み立てていれば自己都合で解約する場合も100%返金されます。

そして重要なのは、セーフティー共済(倒産防止共済)の掛け金が経費になることです。つまり法人は全額損金になり、個人事業主や法人は必要経費に算入できるのです。また決算月の5日までに申し出れば、翌年度の掛け金を前納することができるので、決算予想が出てから経費を増やすこともできます。

以下は私が倒産防止共済を前納したときの書類です。

倒産防止共済前納申出書

ここで、よく言われるのが「セーフティー共済(倒産防止共済)は税金の繰り延べにすぎない」ということです。経費にすることによってその年の税金は浮きますが、解約手当金を受け取ると益金になるのでそれまで節税した分が課税されるのです。

ただし、不動産経営では必ず大規模修繕があります。何年かごとに大きな出費があるので、そのときに解約して積み立てておいたお金を受け取り、その解約手当金で大規模修繕をします。そうすれば、決算はマイナスになることがありません。

例えば、年間の家賃収入が400万円だとすると、その10%の40万円を12年間積み立てます。12年目に解約して受け取った480万円で大規模修繕をすれば、利益は通常の年とそれほど変わりません。なお、解約手当金を受け取れば、翌日には次の修繕のために倒産防止共済へ再び加入できます。

修繕積立金で節税しながら、良い決算書を作る裏技

なお、私が実践しているおすすめの方法は、セーフティー共済(倒産防止共済)の掛け金を経費計上せず、資産計上するというものです。この方法は、経費を増やさないので利益は多いままですが、法人税の計算のときに減算処理することで法人税は少なくなります。

倒産防止共済の資産計上

この方法で処理すれば、決算書上は利益が減らないので銀行の評価が良くなります。ただし税理士でも理解している人が少ないやり方です。

下記は実際に私の法人で減算処理したときの計算書です。

所得の計算(倒産防止共済の掛け金の減算処理)

このように所得から減算処理をすることで、経費計上しなくても法人税を減らすことができます。

ただし、仮に法人税申告で共済の掛け金を減額するのを忘れたとしても、修正申告は認められません。そのため十分に理解している税理士に依頼するか、大家がきちんと理解して決算申告書を確認する必要があります。

アパートの大規模修繕費用は経費なのか

それでは、実際にアパート大規模修繕をしたときの費用は経費になるのでしょうか。

まず、大規模修繕に支出した費用のうち、アパートの資産価値を高めたり耐久性を増したりするための修理に対する支出は、資本的支出になります。グレードアップが資本的支出だと考えましょう。

例えば、アパートに非常階段を取り付けたり、バリアフリーのためにスロープや手すりなどを付け加えたりする費用です。また、アパートの屋根をスレートからガルバリウム鋼板へ葺き替える場合も資本的支出です。マイナスだったものをゼロに戻すのが修繕費です。

つぎに修繕費に該当するのは、通常の維持管理のもの、原状回復のために要した費用です。例えば、通常の外壁塗装や屋上防水、壁紙や床材の交換などです。

資本的支出で処理するより、修繕費として処理した方が税金が安くなります。ただ、実体に基づいて経理処理を行うことが大切です。資本的支出か修繕費か不明な場合には、他にも細かい要件がある場合がありますので、「大規模修繕は修繕費か資本的支出か?効果的な税務処理と確定申告を解説」の記事をご参照下さい。

アパートの大規模修繕費の減価償却年数は22年

仮にアパートの大規模修繕費用が資本的支出に該当する場合、耐用年数は22年です。大規模修繕の年に「資本的支出の費用を新たに支払った」として、耐用年数の22年で減価償却していきます。

例えば大規模修繕に500万円かかり、全てが資本的支出の場合には、下記のように22年にわたって23万円ずつ減価償却していきます。

耐用年数 22年
償却率 0.046
減価償却費 500×0.046=23万円

このように500万円の修繕をしても、資本的支出に該当すればその年の経費として認められる金額は23万円にしかなりません。資本的支出より修繕費として処理した方が節税上は有利なことがわかります。

そのため大規模修繕の前には税理士に相談し、なるべく修繕費として経費処理できるような方法を探しましょう。

まとめ

アパート経営と不動産投資にとって、大規模修繕は大切です。アパートを安全に居住できるようにし、アパートの価値を高めることで入居者を確保し、安定した経営をすることができます。

そこで大規模修繕にかかる大体の費用を検討し、修繕のための費用を前もって積み立てることが必要です。

修繕積立金に関しておすすめの方法は、家賃の10%を経営セーフティー共済(倒産防止共済)で積み立てる方法です。経費計上することも可能ですが、資産計上すれば決算書上は利益が多く、かつ節税をすることができます。

このように大規模修繕に備えて修繕積立金を用意し、適切な修繕を行うことが大切です。賢く節税しながら銀行からの評価を良くし、経営者として不動産投資をすれば、安定した賃貸経営をしていくことができます。