木造建築の大規模修繕で気になるのは、建築確認申請が必要かどうかです。建築確認が必要な工事は、建築基準法で建築物の種類ごとに決められています。
そのため自分が大規模修繕を行う木造建築がどの建築物に該当し、その場合はどんな工事で建築確認申請が必要なのか理解しなくてはいけません。
ここでは木造建築が建築基準法の何号建築に該当するのかの見分け方を解説します。このとき、より条件が緩い4号建築に該当すると、増築や改築などで建築確認申請が不要になります。そうしたうえで、建築確認申請を出し忘れがちな工事など木造建築の大規模修繕での注意点についてみていきます。
もくじ
木造建築は何号建築に該当するのか
木造建築の大規模修繕で建築確認申請が必要かどうかは、建築基準法で建築物の種類・工事内容ごとに決められています。そのため、木造建築がどの建築物の種類に該当するのか把握しなくてはいけません。
それでは、建築基準法における建築物の種類を確認していきましょう。建築物の種類は下記の4種類に分類されます。
この4種類の建築物の中で、木造建築は3号以外の建築物(1号・2号・4号建築物のどれか)に分類されます。調べたい木造建築が何号建築に該当するのか知るためには、これらの条件をひとつひとつ確認しなければいけません。
木造建築が何号建築か確認するためのフローチャート
調べたい木造建築が何号建築に該当するのかひとつひとつ見ていくのは手間です。そこで、確認するためのフローチャートを作りました。以下のフローチャートにしたがって、どの木造建築物に該当するのか確認しましょう。
まず、特殊建築物は以下が該当します。
- 体育館、図書館、集会所、百貨店、飲食店、物販店舗、共同住宅、病院、ホテル、旅館など
例えば以下は保育園なので、木造建築物であっても特殊建築物になります。
このような特殊建築物で、その用途に使う床面積が200m²を超えるときは1号建築物になります。
次に大規模建築物の条件「3階建て以上、500m²超、高さ13m超、軒高9m」のいずれかに当てはまる場合には2号建築物になります。
例えば、以下の木造建築物は一般住宅ではあっても、3階建てのため2号建築物です。
一方で、どちらの条件にも当てはまらない場合には4号建築物になります。
実際のところ、木造建築は4号建築だと思っている人が多いです。しかし、このように木造建築であっても4号建築物以外に該当がすることがあります。ただし、4号建築に該当すれば建築確認申請が必要な工事の範囲が少なくなります。
4号建築に当てはまる条件
そこで木造建築物が4号建築物に該当するときの条件を確認します。要は特殊建築物でなく、2号建築物の条件より下であれば、4号建築物に該当します。
木造建築が4号建築に該当するためには下記が条件になります。
これらすべての条件当てはまれば、建築基準法の4号建築に該当します。一般的な住宅は、ほとんどがこの条件を満たしています。
ただ都市部の住宅だと3階建ても多いので、その場合には4号建築物に該当しません。また200m²を超える共同住宅なども除外されますので、注意が必要です。
木造建築の大規模修繕で建築確認申請が必要なとき気をつけること
それでは木造建築の大規模修繕のときには、どんな工事の内容で建築確認申請が必要でしょうか。建築確認申請が必要となるのは下記の工事のときです。
建築物の種類 | 場所 | 増改築・移転 | 大規模な修繕
大規模な模様替 |
用途変更 |
1号建築物 | 全国 | 〇 | 〇 | 〇 |
2号建築物 | 〇 | 〇 | × | |
4号建築物 | 都市計画区域内 | 〇 | × | × |
※増改築・移転に該当する面積が10m²以下のときには建築確認は不要(ただし、防火地区・準防火地区は除く)
すなわち木造建築が1、2号建築物に該当するとき「増改築・移転」「大規模な修繕・模様替」で建築確認申請が必要です。1号建築物の場合には、用途変更のときにも建築確認申請が必要になります。
また、4号建築物に該当する場合は都市計画区域内にあり、かつ「増築・改築・移転」のときだけ建築確認申請が必要になります。
実際のところ、木造の1号建築は特殊な用途に使われ、多くの人が集まるため、増改築が多く行われます。病院や学校、共同住宅、飲食店などは古くなれば使い勝手が悪くなります。そのため、こまめに大規模修繕を行わなくてはいけません。
それに対して木造の2号建築物も大規模な建物ですが、一般的には住宅になります。そのため増改築は稀にありますが、大規模な修繕や模様替えに該当する工事はほとんどありません。
木造の4号建築は、増改築に該当する工事はたまにあります。ただ増築する場合は、建築確認申請が不要な10㎡以下におさえるケースが多いです。
確認申請が必要な工事の種類
それでは上記の工事区分「増築・改築・移転」「大規模修繕・模様替」「用途変更」は、どのような工事になるのでしょうか。
木造建築の増築・改築は建築確認申請が必要なケースが多い
はじめに、増築・改築・移転はそれぞれ下記の工事をいいます。
前述したように原則として木造建築を増築・改築・移転するときには建築確認申請が必要です(ただし、防火地区・準防火地区以外で工事面積が10m²以下の非常に狭い範囲の場合には除外されます)。
ここで木造ならではの注意点があります。木造建築は鉄筋コンクリートなどの強固な建物に比べ、増築や改築が容易にできます。そのため申請が必要だということを忘れがちです。
例えば下記はバルコニーを子供部屋に改装した例です。
このような工事のときには増改築に該当しないと思う人が多いです。そもそも申請が必要と気づかないこともあります。
実際、増築した部分がこの部屋のみで10m²以下であれば建築確認申請は不要です。ただし、この部屋だけで10m²以上だったり、他の部屋も増築したりした場合は建築確認が必要となります。他にも「吹き抜け部分を改造して部屋を増設する」「ロフトを部屋に改装したりする」ことは増築に該当します。
大規模な工事のときは建築士に依頼するので、建築確認申請が必要なときはすぐわかります。ただ大工さんに直接依頼するちょっとした工事のときには、注意が必要です。耐震性や防火性が変わりそうと感じる工事は建築確認が必要な場合も多いので、まず建築士や工事業者に確認しましょう。
なお移転に関しては、同じ敷地内で建築物を移動する「曳家(ひきや)」が対象になります。そのためほとんど該当することはないでしょう。
大規模な修繕・大規模な模様替は該当するかどうか曖昧
つぎに大規模な修繕と大規模な模様替えは下記の工事になります。
例えば、木造建築物の大規模な修繕は、下記が該当します。
- シロアリ被害でボロボロの半分以上の柱を同じ形状・寸法で造り替える
- 傷んでいる瓦屋根を剥がし、やり直す
このように、いまある建物を構成する主要な部分をやり替えることを大規模な修繕といいます。主要構造部を大幅に変えれば防火性や耐震性などに問題が生じる可能性があるため、確認申請が必要になるのです。
また木造建築の大規模な模様替えの例としては、下記の工事があげられます。
- モルタルの外壁を半分以上サイディングに張り替える
- 瓦屋根をガルバリウム鋼板に張り替える
なお、大規模な修繕・模様替えは主要構造部の半分以上を修繕するときのみ該当します。ただ、どこから過半とするのか線引きが曖昧なときも多いです。
実際のところ、行政機関や建築士によっても判断が分かれます。そのため該当するのかわかりにくい場合には、事前に行政機関や建築士など専門家に相談しましょう。
用途変更は消防法に注意が必要
さいごに用途変更とは、建築物の主要な用途を変更することです。用途変更をするときには、200m²を超える特殊建築物(1号建築物)のみ建築確認申請が必要になります。ただし1号建築物の用途変更の場合でも、物販店舗を飲食店に変更するなど類似する用途のときには免除されます。
木造建築の用途変更としては、下記の例があげられます。
- 木造住宅をレストランに変更する
- 広い古民家を旅館に変更する
なお、このように住居を他の業務用途に変更する場合、消防法で定められた基準が変更前後で全く異なることがあります。
例えば店舗や旅館では、用途が住居のときには必要ない避難・防火・消防設備が必要になります。また地域や規模によっては、準耐火建築物や耐火建築物にしなければなりません。
そのため、消防法に対応した工事が追加で必要になることがあります。したがって用途変更のときには特に消防法に注意しましょう。
木造建築は申請費用がそれほどかからない
これまで見てきたように木造建築の多くは他の構造に比べて規模が小さいため、建築確認申請が必要な場合は限られます。しかし建築確認が必要な工事を行う場合には申請が必要であり、他の構造物と変わりはありません。また費用もかかります。
建築確認申請の費用は規模に応じて異なります。そうしたとき、小規模な木造住宅は数万円で済む場合もあります。また木造建築はそこまで大規模にはならないので、費用が高額なことは滅多にないでしょう。
建築確認申請を行うのは建物の建築主ですが、設計事務所や建築会社などの担当者が代行するケースが一般的です。期間は1週間~1ヶ月程度かかるため、計画的に工事を実施しましょう。
まとめ
木造建築の大規模修繕で建築確認申請が必要かどうかは、建築基準法で建築物の種類ごとに対象工事が定められています。そのため大規模修繕する建築物が何号建築に該当するか判断する必要があります。
一般的に、木造建築は4号建築物に該当すると思われがちですが、その他の建築物であることも多くあります。ただ4号建築に該当すれば建築確認が必要な工事は、都市計画区域の増築・改築・移転のみに限られます。
しかし4号建築の木造住宅でも、すべての場合で建築確認が不要にはなりません。また木造建築は容易に修繕することができるため、申請が必要だと気付かないことがよくあります。
このように大規模修繕工事では、建築確認申請が必要かどうか判断が分かれるケースがあります。そのため木造建築だから申請は必要ないと判断するのは危険です。専門家と相談しながら大規模修繕を進めましょう。