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マンションの大規模修繕の際には、様々な申請や届出が必要です。どういう届出が必要なのかは工事内容によって異なります。また届出や申請を提出するのは、通常、大規模修繕工事の施工会社です。

ただ中には、申請が必要な場合に手間とコストがかかるため、工事価格が高く跳ね上がるものがあります。また、決められた通りに申請しないと罰則がある届出もあります。さらに補助金に関しては、事前に申請しないと受けることができません。

そのため、マンションの管理組合やオーナーは、大規模修繕工事の計画の段階からどのような場合にどんな届出が必要なのか把握する必要があります。場合によっては、申請がいらないように工事内容を工夫することも可能です。

そこでここでは、大規模修繕工事に必要な申請や届出についてまとめました。もっとも問題となる建築確認申請や省エネ法による届出について確認し、その他の官公庁への届出や補助金の申請についても見ていきます。

大規模修繕で建築確認申請は必要か

マンションの大規模修繕の申請や届出の中で、最も気になるのは、「建築確認申請が必要かどうか」ではないでしょうか。建築確認申請が必要な工事は、建築基準法で決められています。

建築確認申請が必要にも関わらず、申請を怠ると1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処される恐れがあります。このとき、罰せられるのは施主で工事会社ではありません。つまりマンションの管理組合やオーナーが罰せられます。

また、建築確認に合格すると発行される検査済証がないと、マンションの売却が困難になることがあります。私の友人は、マンションの購入直前に検査済み証がないことが判明し、銀行から融資を断られました。建築確認はとても重要な申請なのです。

そのためどのような場合に建築確認が必要なのか、把握することが大切です。

建築確認申請が必要な定義と条件

そこで建築基準法で定められた建築確認が必要な工事と、該当の建物について確認します。まず建築基準法では、下記の工事のときに建築確認が必要です。

  1. 建築(新築・増築・改築・移転)
  2. 工作物や建築設備の設置・取替
  3. 大規模の修繕または模様替え

大規模修繕工事では、上記1から3の工事はどれも該当する場合があります。ここで建築基準法での内容は、一般的に使われている意味と異なる場合があります。それぞれどのような工事を指すのでしょうか。

1.建築(新築・増築・改築・移転)

建築基準法では建物の新築、増築、改築、移転を「建築」といいます。新築は建物を建てることで一般的な意味と同じですが、その他の工事はニュアンスが違う場合があります。

増築は今ある建物に続いた建物を作ることや、同一敷地内にもう一つ建物を建てることで延べ面積が増加します。改築は建物の一部を取り壊した後に大きさや構造などが同様の建物を建てることであり、面積の増加を伴いません。また移転は建物を違う敷地に移すことを指します。

2.工作物や建設設備の設置・取替

建築確認が必要な工作物や建設設備は、小荷物専用昇降機やエレベーターが該当します。

3.大規模な修繕・模様替え 

大規模な修繕や大規模な模様替えは、主要構造部の二分の一以上にわたって修繕や模様替えをすることです。このとき主要構造部とは、壁、柱、床、はり、屋根または階段を指します。この中のひとつでも二分の一以上改修するとき、大規模な修繕・模様替えに該当します。

通常使っている「マンションの大規模修繕」とは意味が異なります。通常の屋根の改修や外壁塗装は大規模の修繕に該当しません。

この1~3の工事の中で条件に当てはまる場合に、建物のある自治体に建築確認申請をしなければいけません。ただ建築物は様々な種類があり、全てが同じ条件というわけではありません。建物の種類や規模ごとに建築確認が必要な工事が定められています。

マンションの場合には、建築確認が必要な工事は規模によって異なります。200m²超のマンション・アパートと200m²以下の小規模な共同住宅で分けられています。

・200m²超のマンション

建築基準法において共同住宅は、第6条第1項1号の「特殊建築物」に該当します。この「特殊構造物」は人が集まる施設である映画館や病院、ホテル、学校なども該当します。そのため、より厳しい基準が定められており、200m²を超える場合、以下の工事をするときに建築確認申請が必要です。

200㎡超のマンションで建築確認申請が必要なとき

つまり建築基準法で定義されている全ての工事で確認申請が必要となります。

・200m²以下の小規模なマンションやアパート

それでは、200m²以下の小規模な共同住宅はどうでしょうか。この場合、建築(新築・増築・改築・移転)のときにのみ建築確認申請が必要です。エレベーターの設置や大規模の修繕・模様替えのときには建築確認申請は必要ありません。

200㎡以下のマンションで建築確認申請が必要なとき

ただし工事をするマンションの面積に関わらず、特別な規定や例外があるケースがあります。確認申請に該当しそうな場合には、事前にマンション所在の自治体に問合せましょう。

マンションの大規模修繕で建築確認が必要なケース

それでは実際にマンションの大規模修繕で建築確認申請が必要なケースをみています。

・建築(新築、増築、改築、移転)

下記のような工事は建築(新築、増築、改築、移転)に該当し、建築確認が必要です。

  • 集会所・コミュニティーセンターなどの共用付属施設の新築
  • 居室増築、バルコニーの屋内化
  • エレベーターなど共用部分の増築

以下は、国土交通省のホームページに載っているマンション増築の例です。

バルコニーの一部を廊下にして居室を増築しています。このように公団住宅などでは老朽化に伴い、大規模にリニューアルする施設が増えています。その際に居室を増築したり、コミュニティスペースを設置したりする例がみられます。

大規模修繕で増築や改築を行う場合には、このように建築確認が必要となります。そのため確認申請のコストもかかり、工事金額はさらに高額になることを覚えておきましょう。

・工作物や建築設備の設置

下記の場合には、工作物や建築設備の設置となり、200m²超の共同住宅の場合に建築確認が必要です。

  • エレベーターの設置
  • 自走式駐車場の設置

もともとエレベーターがない建物にエレベーターを設置する場合には、必ず建築確認申請が必要になります。また自走式駐車場を設置する場合にも、確認申請が必要です。

なお、機械式駐車場の設置の場合には、建築確認は必要ありませんが、工作物の審査が必要です。これら駐車場に関する申請は忘れがちですので、注意をしましょう。

・大規模な修繕や模様替え

次に「大規模な修繕や模様替え」に該当する工事は具体的にどのようなものでしょうか。大規模修繕で一般的な外壁改修や屋根の塗装などといった改修工事では、前述の通り「大規模の修繕や模様替え」には該当しません。

例えば下記のような例で、構造上主要な部分を二分の一以上改修する場合、200m²を超える共同住宅のみ建築確認が必要となります。

  • 集会所・建物共用部分の改造
  • 住戸の2戸1戸化
  • 耐震補強

これらの集会所や建物の共用部を改造したり、2つの住戸を1戸にしたりする工事は、大規模な工事になることが多いです。例えば、この工事において壁を取り払うときには、建築確認申請が必要になる可能性があります。

下記はUR都市機構のホームページに載っているひばりが丘団地の改修例です。二戸を一戸に改修(ニコイチ)

古いマンションの使い勝手の悪い居室を、このように上下二つをつなげてメゾネットにしたり、左右をつなげて一つの居室にしたりすることがあります。

このような工事は、建築確認申請が必要なときがあります。建築確認申請が必要となると、工事価格は高くなり、他の工事にも影響が及ぶ場合もあります。

ただ計画の段階から、手を加える部分を主要構造部の半分以下に抑える工夫をすれば、建築確認は不要です。できることなら、建築確認申請が必要のない工事を選択するべきです。

耐震補強の場合には、ほとんどのケースで、建築確認申請が必要となります。下記は、国土交通省のホームページにあるマンションの耐震補強の例です。

耐震補強の例

このような耐震補強は、建物全体を地震に強い構造に変えなくてはいけません。そのため、建築確認が必要な工事に該当することが多いです。

耐震補強やエレベーターの交換・増設、大規模な模様替えなど建築確認申請が必須の工事では、提出もれのないように管理組合やオーナー自身が気を付けておかなくてはいけません。

建築確認申請の必要書類

なお建築確認申請の必要書類は建物・昇降機・工作物ごとにそれぞれ下記になります。

書類 建物 昇降機 作業
建築確認申請書 1~5面 1~2面 1~2面
図面
確認申請手数料
その他 建築計画概要書

建築工事届

適宜 適宜

建築確認申請書類は、マンション所在地の市町村のホームページからダウンロードできます。

上記の他に代理人が申請する場合には、委任状が必要になります。建築物の建築確認申請に必要な図面は、案内図、配置図、敷地求積図、平面図、構造計算書などです。

確認申請手数料は自治体ごとに異なり、建物の床面積500m²超から1,000m²で3万円~15万円程度です。大規模修繕の施工会社へ支払う費用の目安としては、同じ規模で20~30万円ほどになります。

なお、特殊な用途の場合や、自治体ごとに必要書類が異なる場合もありますので、事前に確認や相談をしましょう。

既存不適格は事前に相談するべき

ちなみに建築当時は適法であったものの、その後に法令が改正され、改正後の建築基準関係規定に合っていないものを既存不適格といいます。

既存不適格のマンションを大規模修繕するとき、建築確認申請が必要な場合には、本来は現行の建築基準法に適合するようにしなければなりません。ただ、全ての項目で既存不適格を是正しようとすると過度な負担になります。そのため様々な緩和措置が設けられています。

下記は、大規模修繕のときの既存不適格是正に関する緩和の例です。

建築基準法の既存不適格の緩和例

このように改築・増築に関しては、建物の改修が半分以下であれば既存不適格を問わないなどといった面積の緩和があります。また、大規模な修繕や大規模な模様替えの場合には、ほとんどの項目において既存不適格のままで良いことになっています。

ただ建築基準法に関する規定は複雑なので、マンションが既存不適格に該当する場合には、建築確認申請の事前相談のときに確認しましょう。

省エネ法に関する大規模修繕の届出

さらなる注意点として、省エネ法に関する届出があります。これは、建築物のエネルギー消費性能の向上を図るため、2015年に公布された建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(省エネ法)に基づいています。

背景には、京都議定書の温室効果ガスの削減目標があるにもかかわらず、建築物のエネルギー消費が著しく増加していることがあります。

この省エネ法に関しては、大規模なオフィスやビルなどの増改築をするときには、基準に適合させる義務があります。さらに、マンションなどの住宅建築物の大規模修繕のときにも届出が必要な場合があります。

300m²以上の増改築は省エネ法の届出が必要

マンションの大規模修繕に関して、省エネ法で届出義務があるのは、下記の場合です。

対象建築行為 届出 適用基準
300m²以上の増改築 建築主が所管行政庁に届出 エネルギー消費性能基準
(基準に適合しない場合、所管行政庁による指示)

300m²以上のマンションの増改築で、増築部分が300m²以上のとき、省エネ法の届出義務があります。また、省エネ法で定められた基準に適合しないときには、所管行政庁による指示または命令がある場合があります。

なお省エネ法で定められた基準には、外皮基準と一時エネルギー消費量基準があり、両方の基準に適合しなければなりません。

建築物消費エネルギー性能基準

外皮基準とは建物面積や使われている建材、工法などによって計算される建物のエネルギー性能です。また、一次エネルギー消費量基準は、建物で使用する設備のエネルギー消費量の基準です。実際の計算は工事業者が専用のソフトに入力して行います。

省エネ法の届出をしないと罰則がある

ちなみに省エネ法の届出(変更の届出含む)をしない、または虚偽の届出をして工事に着手した場合は、下記のように法に基づき罰金などが科されます。

事例 罰則の内容
届出を怠った場合または、虚偽の届出をした場合で工事に着手したとき 50 万円以下の罰金
基準に不適合かつ所管行政庁が必要と認めるとき 指示
正当な理由がなくてその指示に従わない場合 命令
正当な理由がなくてその命令に違反した場合  100 万円以下の罰金

このように省エネ法による届出をしないと厳しい罰則があります。建築確認申請と同じように、罰せられるのは施主です。

古いマンションでは、現在の省エネ基準に合致していることはまずありません。そのため、大規模な増築や改築を行うときには、新しい基準に合うような省エネ改修も必要になります。マンションの大規模修繕で増改築を伴うときは注意しましょう。

その他の届出

ほかにもマンションの大規模修繕のときに届出が必要なことがあります。使用する設備や実施する作業に関係した官公庁への届出や、助成金に関する申請などです。基本的に申請や届出は、大規模修繕工事を請け負う業者が行いますが、マンションの管理組合やオーナーも把握しておかなければなりません。

官公庁への届出

大規模修繕のときには、マンションの前の道路を使用したり、足場を設置したりすることで、官公庁へ届出が必要な場合があります。修繕工事の作業内容や利用する設備によってざまざまですが、一般的に下記のような届出があります。

・道路占用許可申請・道路利用許可申請

どちらも道路上で工事や作業をするときに必要な申請です。道路使用許可申請は、道路を使用する15~30日前に下記の申請書を管轄の警察署に申請し、許可を受ける必要があります。

道路使用許可申請書

道路使用許可申請は交通の安全に支障が生じる可能性のあるものを対象にしており、一時的に道路上で行うものであっても提出しなければなりません。

一方、道路占用許可は、公道にはみ出して工事をしたり、足場を設置したりするときに必要な申請です。管轄の行政や土木事務所などの道理管理者へ提出します。

なお道路占用許可は継続的に道路を使用するものが対象です。道路占有許可が必要なときは、道路使用許可もあわせて提出します。

・特定建設作業実施届

杭打ち、コンクリート打ちなどで振動、騒音を伴う作業を実施する場合、特定行政庁へ作業を開始する7日前までに届け出る必要があります。

建設作業(工事)に伴い発生する騒音・振動については、法で定められた作業(特定建設作業)の場合に、規制基準が適用されます。また、作業日の7日前までに事前に建設作業の届出が必要です。

・足場の設置届

高さが10m以上の足場を60日を超えて設置するとき、作業開始30日前までに労働基準監督署長への届け出が必要です。ただし、組立てから解体までの期間が60日未満の足場は、設置のときの届出は不要です。

これらの届出は、大規模修繕工事の工事業者が届出をする義務があります。通常の工事業者であれば、届出がもれることはないはずです。ただ施主も責任は発生するので、きちんと届出が出されているか、工事業者から報告を受けて把握するようにしましょう。

補助金・助成金に関する申請

重要なのは、建築確認や官公庁への届出だけではありません。補助金や助成金に関する申請も事前にやらなくてはいけません。

マンションの大規模修繕工事では、国や各自治体が実施している補助金・助成金を利用できる可能性があります。例えば、下記は国土交通省の長期優良住宅化リフォーム推進事業による補助金です。

長期優良住宅化リフォーム推進事業

これは性能向上リフォーム工事に関して、費用の三分の一まで、戸当たり100~250万円の費用が補助されます。20戸のマンションであれば、最大で2,000~5,000万円になります。

他にも自治体ごとに建物の耐震やアスベストに関わる費用を助成する補助金を設けているケースが多くみられます。ただ内容や条件などについては随時変更がありますので、マンションのある自治体の制度を確認しましょう。

補助金を申請する作業は煩雑ですが、補助があればその分の費用が浮き、予算を他の修繕に回すことができます。面倒ではありますが、ひと手間をかけることで、何千万円もの費用負担を軽減できることがあります。該当する補助金がないか国や自治体の制度を必ず調べましょう。

まとめ

マンションの大規模修繕のとき、事前にやらなくてはいけない届出や申請がたくさんあります。これらは施工会社が届出をしますが、管理組合やオーナーも把握する必要があります。

とくに建築確認申請や省エネ法の届出は、マンションのオーナーや管理組合が提出する義務があります。該当する場合に届出を怠ると罰則も設けられているので、確実に申請しなくてはいけません。

建築確認申請は増築や改築のときにはマンションの規模に関わらず、必ず申請しなくてはいけません。200m²超のマンションであれば、エレベーターの設置や耐震補修、大規模な修繕・模様替えのときも申請が必要です。

大規模修繕工事にはこのようにたくさんの届出や申請が必要です。施工会社に任せきりにせず、主体的に把握するようにしましょう。そうすることで、大きな失敗を防いで大規模修繕工事が成功するでしょう。