大規模修繕現場

大規模修繕のときには空き巣や盗難などの犯罪が多くなると言われています。なぜなら大規模修繕中のマンションは不審者が侵入しやすい状況になるからです。そのため防犯対策をしっかりと行わなければなりません。

しかし実際にどんな対策を取ったらよいのか、大規模修繕は何度も経験することではないので、理解できている人は少ないです。

そこで管理組合やマンションのオーナーが、大規模修繕中の防犯対策をどのようにすればいいのか具体的にみていきます。さらに気を付けなければいけない点や、マンションの住民へ注意を喚起するポイントなどについても解説します。

大規模修繕で発生しやすい盗難の被害

大規模修繕中は盗難や空き巣が発生しやすいといわれます。ただ、これは本当なのでしょうか。

警視庁の発表によると、2019年度の空き巣など侵入窃盗は、全国で57,808件起きました。そのうちの14.8%、8,550件が共同住宅で起こっています。一日当たりにすると23件とそれほど多い数字ではありません。また、必ずしも大規模修繕中のマンションに起こった窃盗とは限りません。

しかし、マンションの大規模修繕中は空き巣が入りやすい環境であり、実際に盗難は各地で起こっています。

例えば、下記は福岡県早良警察署のホームページに載っているお知らせです。

大規模修繕中の連続空き巣被害例

このように福岡市内では、大規模修繕中のマンションに空き巣被害が発生しています。

それほど数は多くはありませんが、実際に大規模修繕中に空き巣に入られる例はありますし、中には連続で被害に合うこともあります。

足場があるため空き巣が起こりやすい

それではなぜ、大規模修繕中に盗難が起こりやすくなるのでしょうか。それは下記の理由があげられます。

  • 工事業者などたくさんの人が出入りする
  • 音がうるさく紛れやすい
  • 足場がかかっていて侵入しやすい
  • シートに覆われているため隠れることができる

大規模修繕工事中は工事業者が何社も出入りし、オートロックも手薄になります。そのため侵入者は工事業者に紛れ、侵入や下見がしやすい状況です。さらに空き巣が窓を壊すなど大きな音を立てても、工事の音に紛れることができます。

また、足場がかかっているので、容易にマンションのベランダに侵入することができます。下記は、実際に足場をかけた大規模修繕中のマンションの写真です。

大規模修繕中の足場

このように屋上まで足場を組むので、足場からマンションへの侵入は簡単です。

例えば、居住階しかエレベーターが止まらないようなセキュリティの厳しいマンションでも、足場があれば簡単に共用廊下に侵入することができます。このときマンションはシートに覆われているので、外から見えにくく隠れることができます。

下記は警視庁のまとめた、空き巣など侵入窃盗の侵入口のデータです。

マンション空き巣犯罪の手口

出典:警視庁 住まいる防犯110番

このように空き巣は、マンションの窓や玄関からの侵入します。大規模修繕のときには足場がかかっているために、空き巣の侵入口である窓や玄関へのアプローチが容易になります。

そのため管理組合やマンションオーナーは適切な防犯対策をとらなくてはいけません。しかし、防犯対策をとっていたとしても、それでも空き巣に入られることがあります。そのとき管理組合やマンションオーナーは責任を問われるのでしょうか。

適切な防犯対策なしでは、管理組合やオーナーが訴えられる可能性

結論からいうと、故意や明らかな過失がある場合には、管理者が責任を問われますが、そうでない場合には責任は問われません。

つまり管理組合やオーナーが適切な防犯対策をとり、セキュリティに各自気を付けるよう居住者に周知していた場合には、責任は問われません。

しかし、住民に大規模修繕工事の日程などを通知せず、防犯対策を怠った場合には、管理組合やオーナーが訴訟を起こされる可能性があります。

例えば、管理組合やオーナーが住民に伝えずに大規模修繕工事を開始し、窓を開けて外出した住民の居室に空き巣が足場から侵入し、盗難の被害があった場合などです。

また、住民が管理組合やオーナーに対し、大規模修繕のやり方や騒音などの対応に不信感を抱くことがあります。そのようなときに空き巣や盗難などが起これば、住民は感情的になって訴訟に発展する可能性があります。

そのため大規模修繕工事の開始のときには特に居住者へ丁寧に説明しなければなりません。そのうえで適切な防犯対策をとりましょう。

管理組合やオーナーができる防犯対策

ここで管理組合やオーナーの適切な防犯対策とは、どのようなものでしょうか。具体的には下記があげられます。

  1. 工事予定を明示
  2. 工事会社に防犯対策を確認する
  3. 居住者に防犯に気を配るようお願いする
  4. 工事会社・居住者の足りないところをサポート

まず、工事のスケジュールや工程、工事業者の名前などを居住者に周知・説明します。次に工事会社の防犯対策を確認します。

さらに居住者に防犯対策を周知します。このとき足場設置中は空き巣が入りやすく、各居室の防犯は自分で行わなくてはいけないことを居住者に対して事前に説明します。

分譲マンションの場合は工事説明会を開き、居住者に防犯対策のチラシを配ります。また、賃貸マンションの場合は文章を各戸にポスティングします。チラシは以下のような感じです。

大規模修繕工事中の防犯対策のお願い

このような文章を、通常は管理会社か管理組合名で作成します。一方、工事業者がスケジュールや工程を詳しく説明した文章を作成するので、合わせて配布するといいでしょう。

さらに、エントランスやエレベーターの中などの目につくところに掲示しましょう。また、予定がずれ込んだりして工事スケジュールが変更になったときには、すみやかに居住者に通知しなければいけません。

工事会社に依頼する足場の防犯対策

このとき工事会社が行う防犯対策をみていきます。工事を発注するからにはどのような防犯対策を取っているか確認し、もし不十分だと感じたら追加対策をお願いすることも必要です。

泥棒が苦手なのは、「音・光・手間・人の目」です。これらを補うためには下記のような対策があります。

  • 出入り口の施錠と金網養生で足場からの侵入を防ぐ
  • センサーライトや防犯センサーを設置して不審者を撃退
  • 外から見えやすい透過シートの採用で犯罪を防止

ただし、どの対策もお金が掛かります。別途請求される場合もありますし、他の工事単価に含まれている場合もあります。どちらにしても工事金額は高くなってしまうことは覚悟しなければなりません。

そのため工事会社に依頼することは可能ですが、費用対効果を考えたうえで依頼するかどうかを判断しましょう。

出入り口の施錠と金網養生で足場からの侵入を防ぐ

まず基本的なことですが、足場の出入り口の施錠はとても大事です。しかし、実際には、工事終了後に施錠を忘れて帰ってしまい、盗難にあうのは良くあります。そのため足場の出入り口に鍵を設置し、夜間や休日はもちろん、作業中も施錠することが必要です。

このとき暗証番号式の鍵を設置すれば、出入り口を閉めるときは自動で施錠し、開けるときに暗証番号を入力するので鍵のかけ忘れもありません。

また下記のように足場の一階部分を金網で覆って、足場に侵入できなくする「金網養生」も有効です。

足場を金網で覆う

このように足場に簡単に入れる部分だけを金網で覆えば、コストもそれほどかかりません。

ただ、足場を組む範囲によっては、長く金網で覆う必要があります。そのときは結構な出費になりますが、防犯上はとても効果的です。

センサーライトや防犯センサーを設置して不審者を撃退

ほかにもセンサーライトを付けることや、防犯センサーを設置することも有効です。

センサーライトを足場の出入り口付近に付けると、人感センサーで人が近づくと点灯するため侵入の抑止につながります。下記は実際の大規模修繕の現場に設置していたセンサーライトになります。

足場入り口付近のセンサーライト

このようにセンサーライトは簡単に設置できますので、足場の出入り口付近や道路から死角になりそうな場所などに取り付けるようにしましょう。

また、出入口に防犯センサーを設置して、不審者が通った時に警告音を鳴らしたり、現場事務所に通知したりもできます。さらにネットワークカメラも設置して、映像記録を保存するのも効果的です。このとき防犯センサーやネットワークカメラと連携して、警備会社に24時間監視してもらうことも可能です。

外から見えやすい透過シートの採用で犯罪を防止

通常、大規模修繕のときには、工具などの落下や騒音の防止などのために足場をシートで覆わなくてはいけません。しかし、通常のシートは灰色や黒・青などの濃い色か、光が反射しやすい白色です。そのため外からマンションのベランダや窓が見えにくく、空き巣が侵入しやすくなります。

このとき、「透過シート」を採用して、外から見えやすい状態にしている工事会社もあります。例えば下記は左側が普通のシート、右側が透過シートを使った大規模修繕の現場です。

透明のシートで覆う

このように普通のシートでは足場を人が歩いていても分かりにくいですが、「透過シート」だと人が歩いていればよく見えます。

なかなか難しいかもしれませんが、このような「透過シート」を採用できないか、工事会社に確認してみましょう。

実際の大規模修繕の際には、上記の複数の防犯対策を組み合わせます。管理組合やオーナーは工事会社の対策で十分かどうか慎重に検討しましょう。

住民への周知と追加で行う防犯対策

ここで、工事会社がいくらセキュリティを厳しくしたとしても、住民が無関心では泥棒が入りやすくなってしまいます。マンションの管理組合やオーナーが呼び掛けて、一人一人の住民に気を付けてもらうようにしましょう。住民のできる対策として下記があげられます。

  • 窓や玄関を施錠する
  • 外出するとき照明を付けたままにする
  • 窓に防犯フィルムや補助錠、アラームをつける

これらをすべて心がけるように呼びかけましょう。

外壁工事中は窓に補助錠やアラームを付ける

まず基本的なこととして、少しの間でも留守にするときは窓や玄関に鍵をかける必要があります。空き巣は短時間でも入ることがあります。ゴミ捨てなどの短い間でも油断することなく鍵をかけることが大切です。

マンションの上層階の住民だと、窓を開けたまま外出する人も多くいます。しかし、足場が常にかかっている大規模修繕の際には、絶対に窓を開けたまま外出してはいけません。玄関も常に施錠しておきましょう。さらに外出する際に電気を付けたままにすることも有効です。

このとき窓に防犯フィルムや補助錠を付けるのがおすすめです。下記は広島県中央警察署のホームページに載っている空き巣のニュースと対策の例です。

大規模修繕時の空き巣記事

このように警察も施錠や防犯フィルム、補助錠を推奨しています。

空き巣は「侵入に5分以上かかると、7割が諦める」といわれています。そのため補助錠がつけてあったり、窓に防犯フィルムを貼られていて割れにくかったりすれば、その部屋に入るのを諦めるのです。

私も実際に空き巣に入られたことがあります。空き巣は掃き出し窓の近くを割って、開いた穴から手を入れ、鍵を開けて入っていました。もし防犯フィルムや補助錠を備え付けていたら、空き巣は入ることができなかったと思います。

そのため防犯フィルムと補助錠は実際に防犯対策として有効です。下記はホームセンターで販売していた防犯フィルムや補助錠です。

防犯錠や防犯フィルム

このように防犯フィルムや補助錠は、安価で簡単に購入できます。管理組合やオーナーが居住者に購入を促しましょう。なお、補助錠は工事業者が無料で貸し出してくれることもあるので、確認してみましょう。

さらにガラスの破壊・衝撃を検知する防犯アラームも付ければ安心です。こちらはそこまで安くはないので、心配な方には自分で購入してもらうといいです。

さらに管理組合やオーナーは、工事会社や居住者の防犯対策で手薄になるところや、空き巣が侵入しやすいところがないか確認しましょう。

足場付近に防犯カメラを設置

一般的に大規模修繕をするときは、工事会社が防犯カメラを設置することが多いです。しかし、それだけでは不十分です。工事資材などの関係で足場付近に死角が出来てしまう場合には、管理組合やオーナーが防犯カメラを設置しましょう。

このとき電源が近くにない場合でも、充電式で簡単に設置できる防犯カメラが売っています。例えば下記は、私が玄関前にいたずら防止のために設置した防犯カメラの写真です。

防犯カメラ画像

このカメラは人感センサーで人が通ったときだけ撮影が開始され、暗い中でもはっきりと撮影できます。映像はWifiで飛ばすこともできますし、カードに記録を保存することもできます。さらに非常に軽いので、簡単に設置できます。

このようなカメラを設置すれば、簡単に人の出入りを見張ることができます。また、ずっと見張っていないとしても、カメラを付けているだけで犯罪を抑止することが可能です。

空き巣被害が起こったときのために保険の加入を検討

それでは実際に盗難があったときには、工事会社の保証があるのでしょうか。

まず工事請負契約書を確認しましょう。ここに「大規模修繕中に住民が盗難にあったときに、責任は問わない」という旨が明記されている場合には、保証はありません。

しかし、明記されていないときには保証される場合があります。

一般的に、施工会社は工事のとき「工事保険」に入っています。この保険で盗難が保証されるのは、工事の資材や工具などが盗まれたときに限ります。そこで、居住者が盗難にあったときにも保証される「足場保険」などに入っている施工会社もあります。この保険であれば、居住者が盗難にあったときに保証対象になります。

このとき保険の契約者は工事業者だけではなく、マンション管理組合も可能です。そのため工事業者が盗難を保証しない場合には加入を検討しましょう。ただし加入の際には居住者名簿の提出が必要です。

またマンション管理組合が入っている「マンション保険」でも盗難の被害が補償される場合があります。そのため管理組合は大規模修繕のときには保険約款を確認しましょう。

さらに入居者が入っている居室の「火災保険」でも盗難の被害が補償される場合があります。マンションの居住者は「火災保険」に必ず加入していますが、保証内容は保険会社ごとに異なります。そのため保険約款を確認するように促しましょう。

仮に盗難被害に遭遇しても、保険で補償が受けられれば管理組合や大家は感謝されます。そこで、加入している保険約款の確認も盗難被害に遭遇したときの対策になります。

まとめ

大規模修繕のときには空き巣や盗難のリスクがとても高くなります。そのため管理組合やオーナーは工事業者の防犯対策を把握し、不十分であれば追加対策を検討しましょう。

また工事予定や工事会社の防犯対策は、マンションの住民へ丁寧に説明しなければなりません。さらに居住者自身でセキュリティ対策を徹底してもらうことが必要です。施錠をきちんとするなど基本的なこととから、簡単に設置できる防犯フィルムなども備えること検討してもらいましょう。

さらに万が一、盗難が起こった時の保証があるのかを工事請負契約書で確認し、不安な場合は保険の加入も検討するといいです。これが、マンション大規模修繕工事の空き巣対策で考えるべきことになります。