マンションの大規模修繕は不動産の資産価値を保つために必要不可欠です。ただしその工事内容は多岐に渡り、また費用もそれぞれ異なります。マンションを適切に維持していくためにどんな工事を施せばいいのかは、とても難しい課題です。
適切に大規模修繕をしなければ修繕費用は無駄になり、本当に修繕が必要な個所に手がまわりません。そうすればマンションの居住環境は悪化して入居者の質が下がり、資産価値は下がっていくでしょう。
一方、大規模修繕の工事内容としては、リフォームまたはリノベーションに分類することができます。これらの意味することは異なっているのですが、実際にはあまり正しく理解されていません。ただマンションを適切に大規模修繕するためには、これらの違いを学ぶ必要があります。
そこでここでは、それぞれどのような工事なのか違いを確認し、その中でどのような工事を行うべきなのかについて確認していきます。
もくじ
大規模修繕とリフォーム・リノベーションの違い
まずマンションの大規模修繕でのリフォームとリノベーションの違いを考えます。そのため最初にリフォームとリノベーションの意味を確認していきます。リフォームとリノベーションはそれぞれ下記の工事をいいます。
つまりリフォームとは建物の屋内や屋外を修繕したり補修したりすることで、元々の状態や機能に戻すための現状回復工事です。一方、リノベーションは単なる現状回復だけでなく、建物の性能を向上させたりグレードアップしたりする改修工事のことを指します。
さらに大規模修繕は単なるリフォーム工事のときもあり、リノベーション工事まで含むこともあります。通常はそれぞれリフォームなのかリノベーションなのか意識せずに工事を決めています。
ただしリノベーション工事は単なる現状回復工事より費用も多く手間が掛かるため、多くの場合は敢えて取り入れないケースが多くみられます。
リフォーム工事だけの大規模修繕ではマンションの資産価値が下がっていく
ただ、マンションを単に修繕・補修するリフォームだけでは、建てた当時の価値にまでしかなりません。また建物性能もかなり向上しているので、リフォームのみの大規模修繕だけでは居住性が悪くなっていくでしょう。それを放置していれば、さらに深刻な問題が起こってきます。
例えば下記は、結露がひどいマンションの窓の写真です。
古いマンションは断熱性能が悪いことが多く、このように結露が酷い場合があります。頻繁に結露する部屋は、窓枠や窓近くの床が水浸しになってカビが生えてきます。さらに放置すれば、全ての壁や天井までカビだらけになってしまいます。
なお単に現状回復のみのリフォームだけをしているマンションでは、他にも様々な問題が出てきます。下記はその一例です。
- 郵便受け・掲示板が老朽化し、エントランスの内装が古びている
- 宅配ボックス、トランクルームなど必要な設備がない
- オートロックや防犯カメラがなく、照明が暗いなど防犯性能が低い
- スロープの設置がなく、段差がありバリアフリーでない
- 敷地内のデザインや材料が古びていて、緑化環境も整備されていない
- 集会所の機能が不足していたり、駐車場・駐輪場などが不足していたりしている
古びた郵便受けや掲示板は乱雑に使われがちです。また汚いエントランスは入居者の質が悪くなり、資産価値が低くなるでしょう。さらに宅配ボックスやトランクルームなど必要不可欠な設備がなければ、入居者がとても困ることになります。
オートロックや防犯カメラがなく照明の暗いマンションでは、空き巣や犯罪が起こる確率が高くなります。
例えば下記は、マンションの共用部の写真です。
このように昼間でも暗い場所がある場合には、犯罪者にとって隠れやすいです。そのため空き巣などが頻繁に起こる場合があります。
さらに、高齢者にとってエントランスが階段だけでスロープがなければ、出入りにとても苦労します。また敷地内の空間が時代遅れで植栽がなければ、殺伐とした暗い雰囲気になります。
このように大規模修繕のときに現状回復だけをしていてリノベーションを施していないマンションは、性能が劣り居住性が悪くなっていきます。
また住民同士のトラブルも起こり、雰囲気も悪く共用部も荒れていきます。そうして優良な入居者は少なくなり問題のある入居者が増えて、治安が悪くなっていきます。さらにマンションの資産価値は下がり、売却するときにも安くしか売却できなくなっていくでしょう。
マンション大規模修繕ではリノベーションを含めた工事を織り込むべき
このような事態を防ぐためには、大規模修繕をする際には性能や価値をグレードアップする「リノベーション」工事を織り込んでいくことが不可欠です。リノベーションを含めた大規模修繕をすることで上記のような不具合を改善し、住みよいマンションに変えていくことが可能です。
ここで大規模修繕でのリノベーションはどのような工事を指すのでしょうか。またどのようなリノベーションを行えば、マンションの資産価値を保っていけるのでしょうか。
このとき考えられるリノベーション工事は、下記のように分類できます。
つまり建物の性能を向上させる工事や、断熱性能を向上させる工事があります。またデザインを刷新する工事や、共用設備を整える工事が必要です。さらにバリアフリーや防犯性を高くしたり、インターネット設備を導入したりする工事も大切です。
大規模修繕リノベーションはマンション価値の上昇に効果的
このように大規模修繕でリノベーションをすることは、マンションの価値上昇にとても効果的です。ただし工事には費用がかかり、すべてのリノベーション工事を行えば莫大な工事費がかかります。そのため特に費用帯効果の高いリノベーションを大規模修繕の際にしていくことが大切です。
そこで具体的にどのようなリノベーション工事が考えられるか確認しながら、項目ごとに費用対効果の高いおすすめのリノベーション工事をみていきます。
建物性能を向上させるリノベーションは修繕期間を延ばす効果がある
まず建物性能を向上させる大規模修繕リノベーションは、建物の躯体や外装をグレードアップする工事であり、建物の寿命を延ばしたり、見た目もお洒落になったりします。高い材料を使うので大規模修繕費用は高くなりますが、次の大規模修繕までの年数を延ばす効果もあります。そのため安い仕上げ材を使うのと同等かあるいはより経済的なこともあります。
具体的には下記のような工事があげられます。
- 外壁の仕上げ材のグレードアップやサイディングの付加、外断熱改修
- 屋根・屋上の防水仕様のグレードアップ
- バルコニー・共用廊下・階段の防水仕様のグレードアップ
- 鉄部の塗料・仕上げ材のグレードアップ
まず外装の仕上げ材のグレードアップ、外壁にサイディングを付加したり外断熱工事をすることがあげられます。次に屋根や屋上、共用部分の防水仕様をグレードアップすることで防水性能の向上や修繕の年数を伸ばすことができます。
例えば以下は防水工事をした階段の写真です。
それぞれ左側はウレタン防水塗装、右側は塩ビシート防水を施しています。ウレタン防水の単価はm²当たり3,500~6,500円、一方塩ビシート防水はm²当たり4,000~7,000円です。耐久性はウレタン防水が7~10年、塩ビシートは12~15年ほどです。
このように塩ビシート防水の方が高いのですが、耐久性があるため修繕回数を減らすことができます。また塩ビシートは滑りにくく防音性もあり、高級感があります。
断熱性能を向上させるリノベーションは居住環境を快適にする
次に大規模修繕リノベーションで断熱性能の向上は、主に下記のような方法があります。
- 玄関ドアやサッシを刷新
- 外断熱改修工事
- サイディングの追加工事
玄関ドアやサッシを新しくしたり、外断熱の改修工事を行ったり、サイディングの追加工事を行います。そうすることで断熱性能がアップし、結露を防止することができます。
例えば下記は、既存のサッシの内側に二重サッシを後から設置した窓の写真です。
このように二重窓を設置すれば、断熱効果がアップして省エネルギーの部屋になります。また防音対策としても二重窓は効果的です。マンションのサッシ部分は共用部に該当するため、大規模修繕の際に断熱サッシへの効果や二重窓の設置も検討しましょう。
冬暖かく夏涼しい温度差の少ないマンションでは、病気になりにくく暮らしやすいため人気があります。そのため大規模修繕の際には、これら断熱性能を上げるリノベーション工事を織り込めないか検討することが大切です。
なお、このような省エネ大規模改修工事は補助金が対象となっている場合があるので、施工会社に確認しましょう。
デザインの刷新工事は費用対効果が高い
また大規模修繕のリノベ工事において、デザインの刷新には次のようなものがあげられます。
- エントランスのリニューアル
- 共用廊下・エレベーターホールのグレードアップ
- マンション敷地内の緑地や舗装のグレードアップとデザインの刷新
特にエントランス部分のリニューアルは、費用を抑えつつお洒落にリニューアルすることで、費用対効果がもっとも大きいリノベーション工事になります。
例えば下記は、マンションの外壁塗装と一緒にエントランスをリニューアルした例です。
このマンションは以前はドアがなく、そのまま誰でも入って来れる状態でした。そこで、大規模修繕の際に高級感のあるドアを設置し、壁の一部に高級なサイディングを使い洗練された色使いに変更しました。
このようにエントランスは入居者が毎日目にする部分なので、エントランスをお洒落にリノベーションすればインパクトは大きいです。また売買のときにも評価が高くなるため、資産価値があがります。
他には、共用ろうかやエレベーターホールの床・壁材をより高級感のあるものにするのも効果的な方法です。さらにマンション敷地内の舗装にインターロッキングを使用したり、緑地をガーデン風に変えたりすることで、マンションの印象をがらっと変えることが可能です。ただし、エントランスや共用部分のリニューアルに比べると重要度は劣ります。
共用設備の拡充は大規模修繕での重要課題
共用設備の拡充には、例えば下記のようなものがあげられます。
- エレベーターの交換・新設
- ラウンジの新設、ライブラリーや自習室・トレーニングルームなどの設置
- 宅配ボックス、トランクルームの設置
- 集会所の設置
- プレイルームや宿泊室の設置
まずエレベーターの交換や修繕は、住民が安全に暮らすために必要不可欠です。現在ではマンションが建てられた当時より厳しい安全基準があり、地震の際の自動停止装置などが付いたエレベーターに交換しなくてはいけません。元々エレベーターがない3~5階建てのマンションは、後付けでエレベーターを新設することも考えられます。
また宅配ボックスやトランクルームは、居住者の要望が最も多い設備です。例えば下記は小規模なマンションに設置した宅配ボックスの例です。
古いマンションは建て方に余裕があることが多いので、工夫すれば共用部に設置可能なことがあります。ぜひ設置を検討しましょう。
またエントランス部分にラウンジを新設したり、ライブラリーや自習室・トレーニングルームなどを設置したりすることもあります。エントランス部分のラウンジは格好よく見栄えが良いので、印象が格段に良くなります。ただし常にきれいな状態に保たなくてはいけないので、維持管理する余裕がないなら設置しない方がよいでしょう。
ライブラリーや自習室、トレーニングルームは、維持費用がかからず管理もとんど必要ないので、スペースに余裕があれば設置を検討するとよいでしょう。ただし最初から維持管理が楽なように作らなくてはいけません。
また入居者が交流できる集会所を設置したり、子供のプレイルームや宿泊室を設置したりすることもあります。集会所は、増える高齢者の交流設備としておすすめです。ただ使われなくなる場合もあるので、慎重に検討しましょう。
なおプレイルームや宿泊設備は、立地の良いマンションでは人気があり、利用料は管理組合の収入になります。ただし通常のマンションでは、管理の手間と費用を考えると設置しない方がよいでしょう。
バリアフリーや防犯性能、インターネット性能の拡充は必ず検討しましょう
さいごに大規模修繕リノベーションで、バリアフリーや防犯性能、インターネット性能をアップする工事は下記のようなものがあります。
- エントランスや共用部分の段差にスロープや手すりを設置する
- エレベーターの新設
- オートロック・防犯カメラの設置、共用灯の増設やLEDへの変更
- インターネット・Wifiの設置
今後も増え続ける高齢者世帯への配慮のため、エントランスや共用部分にスロープ・手すりを付けて車いすで利用できるようしなくてはいけません。前述した「エレベーターがないマンションでのエレベーターの設置」は車いす世帯に必須の設備となります。
例えば下記はマンションのエントランスに後から設置したスロープの写真です。
このマンションはもともとエントランスには階段のみ設置されていました。そこで大規模修繕の際にこのようにスロープを設置し、植栽を入れて違和感がないようにリノベーションを行いました。
また防犯性能をアップするために、オートロックを導入したり防犯カメラを設置したりすることはとても効果的です。また、共用灯を増設したりLEDに変更したりすることで共用部分を明るく保つことも防犯に有効な施策です。
さらにインターネットやWifiの導入は、マンションの住民の満足度を上げることができます。ただインターネット設備は契約が通常5~7年になるので、導入時に十分な設備を入れても数年経つと速度の遅さなどで不満が出ることがあります。十分に検討した上で導入することをおすすめします。
このように大規模修繕におけるリノベーション工事は、多岐に渡ります。それぞれ費用対効果を考えながら効果的なリノベーション工事を織り込んだ大規模修繕を行いましょう。そうすることで環境の悪化を防ぎ居住者が満足できる住みよいマンションを保つことができます。
まとめ
大規模修繕とリフォーム、リノベーションの工事内容は微妙に異なります。リフォームは単なる修繕や補修、現状回復を図る工事をいいます。一方、リノベーションは建物性能を改善し、グレードアップする工事をいいます。つまり大規模修繕では単なるリフォーム工事のみするときと、リノベーションまで含めた工事をするときがあります。
なお、建物の性能は以前より大分向上しています。したがって大規模修繕工事でただ現状回復リフォーム工事のみしていたのでは、時代遅れで居住性の低いマンションになっていきます。そのため適切にリノベーションを取り入れた大規模修繕をしなくてはいけません。
大規模修繕でリノベーションを検討する項目は多岐に渡りますが、マンション住民の満足度を上げる工事をしていく必要があります。また維持管理の手間やコストも考えた上でリノベーションしていきましょう。
このような費用対効果も考えながら効果的なリノベーションを実施することで、住民の居住環境は快適に保たれ、マンションの資産価値を保つことができます。