足場はマンションの大規模修繕になくてはならないものです。足場があれば安全に作業でき、作業の効率や施工の品質も高まります。しかし、費用的にも大きな割合を占めます。
そうしたとき、足場の組み方や計算方法などは独特で、見積もりをどうみるのか分からない人も多いです。
大規模修繕工事では、足場費用を見直すだけで費用が大幅に少なくなることがあります。
そこで、ここでは、なぜ足場が必要なのか、さらに足場の特徴や費用の目安を詳しく見ていきます。また、足場費用を安くする方法や、実際にどのような視点を持って足場工事を依頼すればいいのかについて考えていきます。
もくじ
足場の組み方や費用の目安
マンションの修繕工事で足場が必要な理由は、主に以下の二つです。
- 作業の効率化と修繕の質の向上
- 安全性の確保のため法律で定められている
第一に、足場を設置することによって効率的に作業でき、質の良い修繕ができるようになります。次に、安全性の確保のために「高さが2メートル以上で作業を行う場合に足場などで作業床を設けなければならない」と法令により定められています。
これらの理由により、マンションの修繕工事では、足場の設置は必要不可欠です。
・マンションの修繕工事で足場は何階まで対応が可能か
参考までに、どのくらいの高さまで足場で対応可能なのでしょうか。通常だと、45m(おおよそ15階くらい)までのマンションは足場で対応可能です。45mまでは足場を地上から組み上げていくことができます。
また、それより高い45m以上のタワーマンションの場合には、足場ではなくゴンドラ等で対応します。タワーマンションの大規模修繕は、低層マンションに比べると注意点も多くコストがかかります。そのため、より計画的な修繕計画が必要です。
大規模修繕の足場の組み方と費用
このときマンションの大規模修繕では、主に下記の3つの足場の組み方があります。
- 枠組足場
- くさび足場
- 単管足場
それぞれの足場の組み方には、下記の特徴があります。足場の費用を正しく理解するために、足場の種類も理解しましょう。
・枠組足場
工場で生産された鉄製の建て枠と他の基本部材を組み合わせて設置します。下記は枠組足場の写真です。
枠組足場は構造が簡単であり、扱いやすく強度もあります。しかし部材が大きく、運搬もコストがかかり、資材を置いておく場所が必要です。
・くさび足場(ビケ足場)
くさび足場は、マンションの大規模修繕にもっとも使われる足場の組み方です。下記はくさび足場の写真です。
このくさび足場は、接合部にある「くさび」をハンマーで打ち込んで組み立てます。複雑な形にも対応しやすく、組み立て・解体が簡単で、さらに耐久性や強度が高く、安全性にも優れています。ハンマー1本で組み立てられ、組み立て時間も短く済みますが、組み立てのときはハンマー打ち込みの音が響きます。
以前は30m(おおよそ10階建て)以上のマンションは「枠組み足場」のみ対応可能でした。ただ2015年に「くさび足場」であっても補強をすれば、高さ45mまで使用可能となりました。
工事会社によっては10階以上の修繕の際にも、施工が容易で複雑な形の建物にも対応できる「くさび足場」を使うことが多くなっています。また、くさび足場(ビケ足場)と枠組み足場を組み合わせて使う会社もあります。
・単管足場
単管足場は、ホームセンターでも売っている鉄の「単管パイプ」を留め具で止めて作ります。そのため組み立てが簡単で、狭い場所にも対応できるうえ、安価に設置できます。ただし強度や安全性が劣るため、高層マンションの大規模修繕で使われることはありません。低層マンションの大規模修繕か、足場を設置するスペースが限られている場合に使われます。
この3つの足場の組み方の中で、マンションの大規模修繕には「くさび足場(ビケ足場)」が採用されることが多くなっています。複雑な凹凸にも対応でき、設置も容易で、安全で作業がしやすいため作業時間が短縮できる利点もあるためです。
ただ敷地が狭く足場を建てる場所が取れないマンションの大規模修繕には「単管足場」、大型マンションの大規模修繕のときには「くさび足場」と「枠組み足場」を組み合わせることもあります。
マンション足場単価と費用の目安
それでは足場の単価と費用の目安をみていきましょう。まず足場の組み方ごとの1m²当たりの足場単価は下記の通りです。
組み方 | くさび足場
(ビケ足場) |
枠組み足場 | 単管足場 |
足場単価
(m²当たり) |
800~1,000円 | 1,000~1,500円 | 700~1,000円 |
この単価をもとに、足場の費用を下記のように計算します。
・足場費用=足場架面積(足場を設置する面積)×足場単価
具体例として、横幅が20m、奥行き10m、高さ15m(5階建て)のマンションを考えてみます。このとき、マンションの外周と足場の外周は以下のようになります。
マンションの外周 | 足場の外周 | |
横幅 | 20 | 21(0.5+20+0.5) |
横幅 | 20 | 21(0.5+20+0.5) |
奥行 | 10 | 11(0.5+10+0.5) |
奥行 | 10 | 11(0.5+10+0.5) |
合計 | 60m | 64m |
つまりマンションの外周+4mが、足場の外周になります。つぎに足場の外周に高さを掛けると、足場をかける面積の「足場架面積」となります。さらに「足場架面積」に足場単価を掛けると、足場の費用を求めることができます。まとめると、下記の図のようになります。
この例の場合、足場の外周64mで高さが15mなので、64×15=960m²が足場架面積です。このとき足場単価が1,000円とすると、足場費用は96万円です。
ただ、マンションの面積は様々ですし、足場の単価も工事会社よって異なります。あくまでも概算ですが、自分のマンションの足場面積を計算して、目安を計算してみましょう。
大規模修繕工事では仮設足場費用が大きい
それでは、大規模修繕工事に占める仮設足場費用はどのくらいなのでしょうか。国土交通省の調査によると、大規模修繕工事の費用のうち、直接仮設工事費用が占める割合は19.2%にもなります。
下記は国土交通省のマンション大規模修繕に関する実態調査の抜粋です。
出典:国土交通省 マンション大規模修繕工事の実態調査について
このように大規模修繕工事の費用の中で、直接仮設工事費用は多くを占めています。
大規模修繕費用は、戸当たり100万円程度かかるといわれています。例えば100戸のマンションの大規模修繕に1億円掛かるとすれば、そのうち1,900万円もの直接仮設工事費用が必要ということになります。
この直接仮設工事は、仮設足場が大部分を占めます。さらに足場にまつわるもの(例えば、飛散防止シートや侵入防止用金網など)も含まれます。
工事のために一時的に設置する設備が直接仮設工事です。つまり様々な作業を円滑に進めるために設置しますが、工事が完成すれば撤去されます。修繕が終われば撤去する設備にそんなに大きなお金をかける必要があるのでしょうか。
しかし足場がなければ工事を安全に進めることは不可能です。そのため撤去するからといってむやみに直接仮設工事の費用を削減しようとすれば、工事の効率が悪くなったり安全性が脅かされることになります。そのため足場費用はなくてはならない費用なので、根拠もなく値下げ交渉をしないようにしましょう。
足場費用を安くする方法
それでは足場を安くする方法はあるのでしょうか。これには、次の2つの方法が考えられます。
- 足場無し工法を採用する
- 相見積もりを取る
この二つの方法であれば、安全性が脅かされることなく、むやみに値引きをお願いしなくても大幅にコストを削減できる可能性があります。
足場無し工法を採用すれば大幅に安くなる可能性
どうしても足場の設置が困難なところでは、最初から足場を掛けないで作業する「無足場工法」「足場無し工法」で修繕されてきました。下記のように「足場なし工法」では、作業員がマンションの屋上から垂らしたロープやブランコを使って作業を行います。
このように作業には危険が伴い、熟練した技術も必要です。また、横への移動がしにくいため、ひび割れなどが広範囲にある場合や補修箇所が多数あるときには使えません。足場を組んで作業する場合よりも作業時間も掛かります。
前述したように2m以上の作業の際には足場の設置が義務付けられていますが、この工法は、特別な講習を受けることにより、ロープによる高所作業が認められています。そのため施工できる業者が少なく、作業員も限られます。
ただ「足場なし工法」は、足場自体が必要ありません。そのため、大幅に費用が削減できる可能性があります。長い間視界を遮られてストレスがかかる足場がないので、住民からの苦情も出にくいというメリットがあります。また、一日の作業が終わればロープなどは撤収するため、防犯上の問題もありません。
そのため自分のマンションで無足場工法を採用できないか、検討している工事会社に確認してみましょう。もし足場無し工法が可能であれば、修繕部分の費用は多少高くなりますが、足場の費用は全て掛かりません。
簡単な計算と相見積もりで費用が安くなる
基本的なことですが、相見積もりを取れば足場費用は安くなる可能性があります。下記は私が実際に行ったマンションの修繕の足場部分の見積もりです。
このように会社ごとに合計金額は全く異なってきます。工事会社によって利益を大きく取る部分は違うので、足場費用の安い会社が、修繕工事全体が安いわけではありません。しかし、業者を決める際の材料にはなるでしょう。
さらに足場の見積りの表記は、会社によって異なるため、比較するのは大変です。しかし、足場を架ける面積がおおよそ合っているかは、自分でも計算して確認しましょう。例えば上記の見積もりの足場架面積は、下記のように差異があります。
- A社:中層206m²+低層736m²=942m²
- B社:東面122.2m²+西面122.2m²+南面335.6m²+北面335.6m²=915.6m²
- 差異:942-915.6=26.4m²
A社とB社の足場架面積の差異は、26.4m²です。この程度の違いだと問題ではありませんが、中には大幅に違う場合もあるので、きちんと確認するようにしましょう。
また修繕の必要箇所に応じて、足場を架ける範囲を建物の一部に絞っても良い場合もあります。私の例では、雨漏りの修繕を主にする必要があり、その他の部分はまだ修繕時期ではありませんでした。そのため、屋上防水と西側の壁の修繕に作業を削り、足場も一面のみに変更しました。
その結果、B社の足場費用を1,532,620円から287,190円に削減できました。
このように必要な部分のみの修繕を行えば、大幅に費用を削減できます。ただしこのようなケースは稀です。私の場合には、何年かマンションを所有した後に売却する可能性があります。そのため、一旦は応急措置のみで修繕を行い、全体的な修繕が必要なときが来たら改めて大規模修繕を検討する計画です。
一方で、特に分譲マンションの場合には、長期的な視点が必要です。一般的には、全体的に足場を設置して修繕した方が、次回以降の修繕はより効率的に行えます。そのため目先の修繕費用を多少安くして、次の修繕で負担が大きくなるよりは、全体的に修繕をした方がトータルコストは安くなります。長期的・総合的に考えて修繕を行いましょう。
まとめ
マンションの大規模修繕において、安全かつ作業を効率的に進めるために足場はなくてはならないものです。その足場の組み方はそれぞれ特徴があるため、大規模修繕を行うマンションの規模や形、修繕の内容に応じて最適な方法で工事してもらう必要があります。
そのため管理組合やマンションのオーナーは、足場の組み方の特性や費用の目安を理解しなければなりません。
そのうえで相見積もりを取り、他の修繕工事も含めて比較検討しましょう。場合によっては、無足場工法の採用や、部分的な足場のみの設置で費用を削れる可能性もあります。
ただし今後のマンションの修繕計画を長期的に見据えて、今回の修繕内容を決めなければなりません。実際のところ建物全体に足場を架け、不具合のある個所全ての修繕を行うことが、結果的には一番安く済む方法でしょう。これが、マンションの大規模修繕の足場について考えるべきことです。