大規模修繕写真

大規模修繕にトラブルはつきものであり、中でも施工不良やミス・工事に起因する事故などは深刻です。そこで重要なのが適切な保証や大規模修繕工事瑕疵保険に入ることです。

そのため大規模修繕瑕疵保険はどんな保険なのか、マンションの管理組合やオーナーはきちんと理解しなくてはいけません。

ただ実際に加入するにしても、加入の方法や工事費用が高くなるのではないかなどの不安があります。

ここではどのような場合に大規模修繕工事瑕疵保険に入ると良いのか、大規模修繕瑕疵保険の仕組みや保証範囲など詳しく確認します。

マンションの大規模修繕と瑕疵保険の中身

大規模修繕瑕疵保険は、2007年に国土交通省に認可された大規模修繕工事の瑕疵保証の保険です。

このとき瑕疵(かし)とは、本来備わっているべき機能・品質・性能・状態が備わっていないことを指します。つまり瑕疵保証とは、工事の不具合や施工不良を保証するということになります。

大規模修繕瑕疵保険は下記のような特徴があります。

大規模修繕瑕疵保険の特徴

このとき大規模修繕を行う工事会社が保険を契約し、保険会社が工事の事前・完了検査を行います。万が一、瑕疵が発見された場合には、保険会社が補修費用の80%の保険金を支払い、施工業者が倒産した場合には保険会社から直接発注者に保険金が支払われます。

このような内容から、大規模修繕瑕疵保険の加入件数は年々増えています。しかし実際のところ大規模修繕の件数に対して、保険契約数はそれほど多いとはいえません。

なぜなら工事会社としては、大規模修繕工事瑕疵保険に加入するために作業が増えてしまい、費用的にも負担があるからです。自社の保証だけで済ませたいのが本音でしょう。

ただし工事会社の保証だけで大丈夫でしょうか。これについて、工事会社の保証だけだと、倒産したときに保証が受けなくなってしまいます。

修繕工事の瑕疵担保責任は契約によって異なる

2000年4月に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」により、新築住宅は引き渡しから10年の瑕疵担保責任が定められました。ここで2020年の民法改正で「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変わり、より消費者に有利になっています。

一方で、工事に関してはそれぞれの工事請負契約書で瑕疵担保責任を定めています。そのため大規模修繕工事への保証を独自に用意している会社も多いです。

例えば下記は、私が実際に屋上防水を行ったときの「防水工事保証書」です。

工事保証書

これは保証期間の10年間の間に工事に起因する漏水が発生した場合、補修を行うことを約束しています。このように工事会社は通常、5年または10年の保証を付けています。

このとき工事会社が倒産などすれば保証は受けられません。例えば、2005年に耐震偽装マンションを建設した建設会社が倒産し、一連の耐震偽装マンションは10年の瑕疵保証が受けられず、大きな社会問題となりました。

そのような問題に対処するため、大規模修繕工事瑕疵保険が作られました。特に規模の大きな賃貸マンションや分譲マンションの大規模修繕工事だと、不具合による影響は大きい問題です。そのため施工主となる管理組合やマンションオーナーは工事会社に瑕疵保険加入を打診しましょう。

なお、大規模修繕瑕疵保険を取り扱う会社は複数あります。保険料は保険会社ごとに設定され、特約も多少違いますが、基本的な保証内容はほぼ同じです。

瑕疵があれば補修費用は高額になる

そうしたとき、大規模修繕瑕疵保険はどのくらいの事故率なのでしょうか。下記は国土交通省の発表している2019年度までの累計事故件数と事故率の実際の数字です。

大規模修繕瑕疵保険事故率

2019年までの大規模修繕工事瑕疵保険の証券発行件数は6,024件あり、その中で31件の事故が確定しています。ただしこのとき保険商品の条件は、RC造延床2,500m²、請負金額3,000万、保険期間5年、4階建です。

ここで事故率は約0.6%と低いですが、平均支払い金額は1,200万円と高額です。つまり工事価格が高額である場合には、修繕金額も高額になる可能性があります。ただ工事金額に比べると保険金額はわずかの負担なので、大掛かりな工事の場合は工事会社に大規模修繕瑕疵保険の加入をお願いしましょう。

大規模修繕瑕疵保険はどんな保険なのか

そこで、「大規模修繕工事瑕疵保険」の保険内容を確認していきましょう。仕組みや保証される工事、保証内容・保証期間、特約についてみていきます。

まず、大規模修繕瑕疵保険の契約は下記のような流れになります。

大規模修繕瑕疵保険のしくみ(契約の流れ)

最初に「管理組合やオーナー」と「契約した工事会社」が保険会社に申し込みをします。次に保険会社が工事前に現場の検査をして、保険契約が結ばれます。現場検査は一級建築士などの第三者によって行われます。現場検査は工事完了時にも行われます。

このとき工事に不具合が見つかった場合は、下記のように保険金が支払われます。

大規模修繕瑕疵保険(保険金支払いの流れ)

瑕疵が発見されたら、マンションの管理組合やオーナーは工事会社に不具合の修復を依頼します。保険会社は現場の調査をし、工事の瑕疵が認められれば工事会社に保険金が支払われます。工事会社は工事の修復を行い、修繕の費用の80%が補償されます。

このとき工事会社が倒産した場合には、管理組合やオーナーが直接保険会社に保険金の請求を行うことができます。

大規模修繕瑕疵保険の保証範囲

大規模修繕瑕疵保険の対象となる工事は、管理組合やオーナーが工事会社に発注した修繕工事です。工事内容はマンションの共用部分と共用設備の工事であり、具体的には下記の部分になります。

  • 耐震補強・改修工事など
  • 外壁・屋上などの補修
  • 給排水設備・管路
  • 電気・ガス・灯油などに関わる配管・設備など

下記は、実際の大規模修繕瑕疵保険のパンフレットの説明です。

大規模修繕瑕疵保険パンフレット

このようにマンションの共用部のほとんどの工事が、大規模修繕瑕疵保険の対象となります。

・保険対象となる住宅

ただ、すべての住宅が補償の対象ではありません。ここで保険対象となる住宅は、延床面積が500㎡以上または4階以上の共同住宅です。

大規模修繕瑕疵保険の保険対象となる住宅

具体的には、分譲マンションや賃貸マンション、団地、社宅、公営住宅、サービス付き高齢者向け住宅などです。このとき、大規模修繕工事に伴って非住宅から共同住宅に用途変更する場合も含みます。

保険料と保険の種類はどうなるのか

ただ、気になるのは保険料です。工事会社が負担する保険料は、工事内容に応じて0.4~0.85%程度です。例えば工事金額が3千万円の場合、25万円程度の保険料が掛かります。別途、工事業者の登録料も必要です。

保険料の種類と保険金額

ここで保険金の限度額は、工事請負金額に応じて1,000万円~5億円です。それではどのようなときに保険金が支払われるのでしょうか。具体的には下記の表のようになります。

保険の種類  補償割合 免責金額
補修費用 80% 10万円(1事故につき)
事故調査費用 100% なし
仮住まい費用など

このように補修費用は実際に掛かった補修費用の80%を限度として、免責金額の10万円を差し引いて支払われます。また事故調査費用や仮住まいや臨時駐車場の費用などは100%支払われます。さらに補修できないときには損害賠償費用が補償され、裁判になった場合には訴訟費用も保証の対象になります。

ただし工事費用に応じて支払限度額があります。工事費が1千万円の場合、800万円(80%)から免責金額10万円を引いた790万円までしか補修費用は補償されないので、注意しましょう。

保証期間は特約によって延長も可能

このとき大規模修繕工事瑕疵保険の保証期間は工事を完了した日から起算して原則として5年間です。ここで「工事を完了した日」は、発注者が記名捺印した「工事完了確認書」の日付となります。

ただし特約を附帯した場合には特約の定める保証期間になり、10年に延びることもあります。一般的に下記のような特約があります。

特約の種類 保証期間
屋上・外壁の防水工事 10年間
タイル剥落事故 5年間/10年間
給排水管工事 10年間
手すり・柵などの鉄部工事 2年間

例えば、屋上や外壁の防水工事、給排水管工事の特約の保証期間は10年、タイル剥落事故は5年または10年、手すりや柵などの鉄部工事は2年間になります。ここで10年間の補償にする場合には、より高品質な施工品質の工事が求められます。

そのため工事費用についても高くなる傾向があります。特に防水やタイル、排水管工事の特約は付けておいた方が安心ですが、予算に応じて考えるようにしましょう。

・大規模修繕と盗難保険

工事期間中に設置した足場を利用して、マンション内で盗難が起こることもあります。このとき工事会社の入る工事保険で補償される場合もありますが、通常は大規模修繕瑕疵保険で盗難は補償されません。工事会社には足場の施錠を、マンションの住民には施錠を徹底するように周知しましょう。

大規模修繕瑕疵保険とリフォーム瑕疵保険との違い

そうしたとき、大規模修繕瑕疵保険よりも小規模な共同住宅の大規模修繕に使える「リフォーム瑕疵保険」があります。大規模修繕瑕疵保険との主な違いは下記の「対象となる住宅」と「保険金額」になります。

・対象となる住宅

対象となる住宅 大規模修繕瑕疵保険 リフォーム瑕疵保険
戸建住宅 不可
共同住宅

延床面積が500m²以上
かつ
階数が4以上(地階を含む)

延床面積が500 m²未満
かつ
階数が3以下(階を含む)

共同住宅の専有部分 不可

・保険金額

大規模修繕瑕疵保険 リフォーム瑕疵保険
保険金額 1,000万円~5億円 100万円~1,000万円

したがって規模の大きなマンションは「大規模修繕瑕疵保険」、小規模なマンションや木造アパートなどは「リフォーム瑕疵保険」で対応するようになります。

リフォーム瑕疵保険のメリットとしては、安い保険料でリフォーム工事を実施したすべての部分が保険の対象となることです。保険料は保険会社によりますが、工事価格400万円で3万円程度と少額です。

国交省の報告では、防水工事の不具合が多く報告されています。そのため防水工事を含むとき、共同住宅や一般住宅でも大規模な修繕のときはリフォーム瑕疵保険に入る方が安心です。工事会社に確認して入るようにお願いしましょう。

大規模修繕瑕疵保険が必要と考える理由

前述したとおり、大規模修繕瑕疵保険に加入することは施工主にとっては安心ですが、工事会社にとっては面倒です。さらに保険料がかかるため、工事費用も割高になる可能性があります。

しかし、自分が1,000万以上の大規模修繕をする際には、多少工事費が割高になったとしても「大規模修繕瑕疵保険」に入るのを条件にしたいと考えます。なぜなら下記の3つの理由によります。

信頼できる工事業者か見極められる

まず第一に、提出書類から信頼できる工事業者どうかか見極めることができます。ここで保険の加入のときに施工会社の保険会社への提出書類は、保険契約書・設計図書のほかに下記も必要になります。

  • 工事請負契約書
  • 詳細見積書
  • 工事工程表
  • 工事概要書
  • 工事仕様書、特記仕様書
  • 使用材料一覧、施工図、施工要領書など

これらの工事仕様書や使用材料一覧表、施工図などは、どんな会社でも作れるわけではありません。小規模な会社やいい加減な工事をしている業者は作ることが難しいでしょう。

もちろん、これらの書類を作成しなくても、中には安くきちんと修繕を行う業者もいます。実際、私がマンションの一室のリフォームをしたときは、工事店は工事工程表を作りませんでした。ただこのときは総額180万円の工事であり、他の工事会社より大分安かったことなどから依頼し、工事は多少遅れたものの仕上がりはきれいで問題ありませんでした。

しかし、大規模修繕に関しては工事が大掛かりになるので、工程表なしに工事を進めることは考えられません。下記は私が屋上防水と建物の修繕をしたとき工程表です。

大規模修繕工程表

私がこの業者に修繕をお願いしたポイントとして、「近隣・住民挨拶」の項目があったことでした。このように工事前に近隣や住民へ挨拶が出来る業者は、信頼できると考えました。

さらに実際の大規模修繕ではもっと工程が増えるので、予定を決めて計画的に進めないと工事がうまくいきません。そのため保険会社へ提出する書類がきっちり揃えられる業者は、工事もきちんと進められる可能性も高いといえるでしょう。

大規模修繕では信頼できる工事業者に任せないといけません。上記のような細かい書類を作成して保険会社に提出できる会社だと、工事にも熱意と誠意をもって取り組むと予想できます。

施工基準により、工事の品質が高い

さらに高額工事で大規模修繕瑕疵保険に入ることを条件にしたい理由のもう一つは、保険会社の施工基準が定められ、工事の品質が高く保たれることです。

一般的に、大規模修繕に関して法的な施工基準はありません。しかし大規模修繕瑕疵保険では、各保険会社で工事施工基準を決めています。その施工基準に沿って、事前の工事検査で工事内容がチェックされます。さらに完了検査では計画通りに作業されているか確認し、不備があれば保険証券が発行されません。

この施工基準は公開されており、例えば下記は「まもりすまい大規模修繕かし保険」の鉄筋コンクリート造の防水工法の施工基準です。

このように適切かつ有効な工法で、基準に沿って修繕工事をしているかを保険会社がチェックします。そのため工事の品質は高く保たれます。

トラブルの際に第三者の交渉が有利になる

さらにもう一つの理由は、保険に入っていれば、瑕疵があった場合に誤魔化されることもなく交渉が有利に進みます

一般的に瑕疵かどうかというのは抽象的で、見解が分かれることも多いです。そのため工事会社は、実際は瑕疵であったとしても認めない場合があります。それどころか、中にはさらに修理代金を請求する業者もいます。

しかし、こういった事象に慣れている保険会社が間に立てば、瑕疵かどうかの判断を中立的にできます。しかも瑕疵であったときには第三者として工事会社と話をしてくれるため、面倒な交渉を丸投げできるメリットまであります。

まとめ

大規模修繕の施工不良やミス・工事に起因する事故に備えるために、マンションの管理組合やオーナーは工事会社の保証を理解しなければなりません。さらに修繕工事の施工会社が倒産したときのため、大規模修繕工事瑕疵保険に入るのが安心です。

しかし大規模修繕瑕疵保険に加入するには工事会社の負担が増えるために、工事の件数に対しての加入件数は少ない傾向にあります。

ただ大規模修繕瑕疵保険の事故率は低いですが、平均の支払い金額は高額になります。分譲マンションの修繕工事の場合や、1,000万円以上の高額な大規模修繕の際には、大規模修繕瑕疵保険の加入を条件に工事会社を選ぶと良いでしょう。

大規模修繕瑕疵保険の条件である詳しい書類を揃えられる会社だと、信頼できる工事会社である可能性が高いからです。さらに保険会社の施工基準に沿っているので工事の品質も高く、瑕疵があったときの対応もスムーズになります。

一方で、マンションの管理組合やオーナーは保証の内容を把握し、工事完了後に不備がないか気を配る必要があります。そして万が一、瑕疵を発見した場合には、適切な処置を早めにお願いするようにしましょう。